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000「昔ながらの本みりん」と「みりん風調味料」の違い
みりんは、今となっては照り焼きや蒲焼きなどのテリやツヤを出すために使われることが多いが、本来は異なるものとして楽しまれていた。
起源は、中国の「密淋(みいりん)」と呼ばれる甘いお酒が琉球や九州地方に伝来し全国に広まった説と、日本で飲まれていた甘いお酒「練酒(ねりざけ)」や「白酒(しろざけ)」が腐ることを防ぐために焼酎が加えられた説がある。戦国時代(16世紀)には、みりんは甘いお酒として飲まれていたことが分かっている。お正月に飲む「お屠蘇」は、もともとはみりんに薬草を漬け込んだもので、今でもみりんを飲む文化は地域によっては根づいている。江戸時代(19世紀)から料理人たちが隠し味としてみりんを使うようになり、少しずつ調味料としての使い方が浸透していった。
歴史を踏まえると、飲んでも楽しめるものが、本来のみりんと言えるのだろう。Table to Farmは、本来のみりんをつくり続けている「李白酒造(島根県松江市)」の永田卓也さんのもとを訪ね、その工程を教えてもらった。
みりんの原材料は、米麹と、もち米、焼酎の3つ。これらをタンクの中に入れ、一定の時間をおいた後に搾ることででき上がる。みりんの甘さは、米麹がもち米を分解する過程でできたもの。米麹の分解の仕方によって甘さは変わり、それがみりんの味を決めるため、どの作り手も麹菌の種類だけは明かさない。
香りは、使っている焼酎の種類によって変わる。「李白酒造」は、日本酒づくりを行っていて、その際に出る酒粕を蒸留し、粕取り焼酎をみりんの原材料にしている。
永田さんは「みりんの作り方は、日本酒の作り方と似ています。大雑把に言ってしまえば、違いは焼酎で仕込むか、水で仕込むかということです。みりんの場合はアルコール発酵をさせないため、この点も違いと言えるでしょう」と教えてくれた。
「李白酒造」のようなみりんのつくり方は、少し前までは普通であったが、現在はその様子が変わってきている。4つ目の原材料として糖類が加えられることもあり、焼酎が醸造用アルコールに代わることもある。食品分類の定義上では、これら全てが「本みりん」となる。違いを明確にするために、「李白酒造」は3つの材料しか使っていないみりんを「昔ながらの本みりん」、そうでないものを「標準の本みりん」と分類している。
また、米麹で甘さを引き出すのではなく、糖類や酸味料、調味料で味をつくったアルコール1%未満のものを「みりん風調味料」と呼び、そこに塩分が加えられたものを「みりんタイプ調味料」と呼ぶ。スーパーマーケットで手に入るものの多くが「みりん風調味料」もしくは「みりんタイプ調味料」で、本みりんが置いてあったとしても、それは「標準の本みりん」であることがほとんどだ。
Table to Farmは、4種類のみりんを飲み比べ、大きな違いがあることに気づいた。「本みりん」は、アルコールによって味が素材にしみ込みやすく、熱を加えるとアルコールが蒸発すると共に肉と魚の臭みを消してくれる。
永田さんは「本みりんの場合は、アルコール度数が14%はあるので、常温保存でも腐敗が進むことはありません。時間を置くと熟成が進み、風味が変わります。経年変化を楽しめることは、本みりんならではの特徴と言えるかもしれません」と語る。
そのなかでも「昔ながらの本みりん」は、ブドウ糖やオリゴ糖など、複数の糖類が含まれているため、やわらかい甘味や深いコクを出すことができる。「李白酒造」のみりんは、さらりとしていてバランスが良く、味の下支えをしてくれる。どの料理に使っても馴染むことが特徴と言えるだろう。
Table to Farmは、米麹が引き出した自然の甘さを持つ「昔ながらの本みりん」をつくっている人を応援し、この味を未来に繋いでいきたいと考えている。
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