自然栽培による在来種の米を広げる

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自然栽培による在来種の米を広げる

取材・文:Table to Farm 編集部

写真:峰岡 歩未

東の亀の尾、西の旭と言われ、かつて日本人に最も愛された幻の米。人工的な品種改良がなされていない自然交配種で、コシヒカリやササニシキの祖となる。とにかく食味(旨み、滋味、 香り)が素晴らしく、過度な甘み偏重の味ではないため血糖値が上がりづらく、アレルギーリスクも極めて低いことが認識されている。米アレルギーの方が増えている原因はさまざまあるが、おいしさじゃない視点として必要とされた米があることも、甘みやもっちりなど、現代の食味に合う味わいだけの視点ではなく、健やかに米を食べ生きることそのものを、そして、それを支えてくれる米が、日本にはそもそもあったのだ、ということを、もっと知られて欲しいと思える。

亀の尾や旭・朝日は、肥料成分との相性が悪く、自然栽培でこそ育つ品種である。実際、肥料を与えると、背丈が伸び過ぎてしまい、雨や台風によって倒伏してしまう可能性がある。倒伏して米が水に浸かった状態が続くと、食べることはできない。


同時に、肥料を与えることで、作物の中に含まれる窒素分が過剰になり、それを求めて虫が集まってくる。その結果、人間の収穫物を得ることにとっては、虫たちは害虫という位置付けになり、虫を除くための農薬を必要としていくことになる。肥料と農薬はある意味ではセット。もし、肥料を使わなければ農薬も必要としない、そういう逆説的な定義を、自然栽培の在来種の米たちは、証明してくれる存在だと言える。

しかし、自然栽培が環境変動によるリスクが高いことは事実としてはある。収量が不安定ともなりやすい。もっと言えば、肥料と農薬を効率的に活用した慣行栽培を行えば、高い収量を得ることができる。米の質や味わいによって価格が決まるのは、食品としては極めて真っ当な評価だが、米が足りず、飢えを経験した時代によって制度化された、日本人全員に米を供給するための仕組みの中では、食味や安全性よりも、むしろ収量で評価されることは、否定するものではないが、今の時代に適切な制度かといえば、そうとは言えない。

もちろん、そこに米の価格が現代においてもなお、安いことは深く関係していく。最近になって、ウェブやSNSなど、自分で発信する術を農家もまた得ることができたことで、農家が自分のファンを作り、価格をしっかりと担保しながら直接流通するマーケットが生まれつつあるとも言える。しかし、農家がみな、そういったコミュニケーションに長けているわけではない。


安全性や味わいで正当に評価されて流通されていくことが普通になれば、誰もが、農薬や肥料を過剰に使わずに生産していく時代になると思うのだ。現に、家で食べるものには農薬は使わない、なんてことを農家の方から聞くこともあるわけだから。

Table to Farmが、おいしい米を探して各地から取り寄せていった時、偶然にも出会ったのが、“亀の尾“という品種だった。体の細胞が、やったー!おいしいぞー!と声を上げるように、そこに集まった誰も(決して昔の米を知っている人がいたわけではない)が、どこか懐かしい味、滋味深い味、と共通して感想を伝え合ったことがある。

この味はなんだろう。“亀の尾“とはどういうお米なのだろう。


調べた時にわかったことが、農薬や化学肥料などを使っていない時代に、日本人が毎日ふつうに食べたいと思ったお米だったことを知りました。

このお米が、毎日の食卓でふつうに食べれる社会になったらいいな。


そんな簡単な動機で、日本中の自然栽培で育てる亀の尾、そして、同時代にあった旭・朝日という品種を探すようになりました。

現在、亀の尾・旭・朝日の自然栽培に取り組む農家を各地で出会い、たくさんの話をしてきました。どういったことがあれば、このお米をよりたくさん生産していくことができるのだろう。もっと言えば、これらの品種を育てたい農家さんは、他にもいるかもしれない。その人たちに種を継承して増やしていくことはできないだろうかと思い始めました。そのためにはいくつかのサポートが必要なことに気づきます。



◯長期契約と最低保証


◯農業技術の共有化


◯DNA鑑定された在来の種の継承



最低保証を含む長期契約を結び、種の継承のサポートや、すでに在来種を自然栽培で育ててきたノウハウを持つ生産者との橋渡しをしていくこと。人と自然の共生を促しながら、健やかなおいしさを求めていく。

農家さんたちと並走しながらサポートしつつ、その取り組みを多くの人に伝えていく必要がある。お米のCSFの取り組みが、朧げながら見えつつありました。



2024年秋、山形県庄内地方に伝え継がれた“亀の尾“の種を、来年の作付けに向けて、福島県で自然栽培に取り組む農家に継承しようとしています。また、新潟県で、育苗期間以外は自然栽培をしている農家さんと、育苗期間も含めて自然栽培に取り組んでみる活動が進みつつあります。

2025年春から、自然栽培で“亀の尾“を育てる農家が少しずつ広がりはじめます。時間をかけてじっくりと、それぞれの土地に適性を持つ“亀の尾“が育っていくことを見守り並走し、私たちは、それを伝えて、しっかりと売らなければいけない。日本に豊かな文化の種があふれる社会を、ぜひ一緒に見守っていってください。

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