道具づくり、木桶づくり。木桶仕込み醤油の未来をつくる。

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道具づくり、木桶づくり。木桶仕込み醤油の未来をつくる。

取材・文:Table to Farm 編集部

写真:峰岡 歩未

醤油は、蒸した大豆と炒って砕いた小麦に麹菌を振りかけ、麹をつくり、塩水を加えて諸味を発酵、熟成させ、それを搾ることでできあがる。江戸時代から続く製法は「本醸造」、そこから時代とともに派生し、諸味に化学的な「アミノ酸液」を加え醸造させたものを「混合醸造」と呼び、搾った醤油にアミノ酸液をブレンドしたものは「混合」と呼ばれる。


中でも、「天然醸造」は、本醸造の製法をベースに発酵を促進するために添加する酵素などを使用せず、保存料などの食品添加物が入っていない醸造方法。

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各地から天然醸造の醤油を食べ比べてみると、「ヤマロク醤油(香川県小豆島町)」がつくる「菊醤」は、程よいキレと、深いコクを感じる味わいをしていた。醤油だけを口に含んでみても塩辛く感じない。ご飯にかけるだけでも、香りを味わえて、とてもおいしい。

高松港から小豆島へフェリーで渡り、5代目である山本康夫さんにお話を伺いに向かった。

日本の醤油は、第二次世界大戦後、量と質を安定的に供給することを目的として、発酵熟成を行う容器は、木桶からホーローやFRP、ステンレスのタンクへと移行してきた歴史を持つ。現在、木桶を使った天然醸造醤油の生産量は、醤油全体の総生産量のわずか1%に満たない。

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およそ150年前から代々受け継がれてきた木桶を含めて、現在、全87本(2023年時点)の木桶を持つヤマロク醤油は、全国でも珍しい、全量木桶仕込みの醤油蔵。



「同じ蔵の中でも、木桶ごとにできあがる醤油の味は少しずつ違います。木桶ひとつひとつに個性があるので、職人は力量が問われます。ただ、やっぱりタンクよりも木桶で仕込む醤油の方がおいしいんですよ」


蔵の中にずらっと並ぶ木桶たちはもちろん、見渡すと梁や柱などにも、びっしりと菌が棲みついている。蔵の中に生息する菌は優に100種類を超えるそうだ。菌の力があってこその発酵。1度の仕込みが終わった後も、木桶の中や、蔵の中に、菌は生き続け、次の仕込み、その次の仕込みの際に、長く力を発揮し続けてくれる。

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タンクで仕込む場合は、仕込み終わりには必ず、タンク内は洗剤などで消毒殺菌されるのがふつう。全く菌がいない状態から醸造を行うことは、スタートの条件が揃うこともあり、同じ味を再現しやすくなると言えるが、実際に発酵を担う菌からすると、どうにも毎回振り出し作業となる。


「先代からは『絶対に桶は洗うな』と教え込まれたし、職人の役目は菌を手助けすることだと教えられました」。何度も発酵を繰り返し、多様な菌によってつくられた独自な生態系が根付いているからこそ、ヤマロク醤油ならではの個性が光る。

戦前の日本の木桶文化には、日本酒の酒蔵で20年〜30年使われた木桶を、次に醤油蔵が受け継ぐことがあったという。現在は、そもそも酒蔵が木桶仕込みをしないことから、そういった循環はほぼなくなってしまっている。


木桶はおよそ100年〜150年使える。木桶の発注がなくなれば、自然と桶屋がなくなっていく。戦前は各地域に桶屋があるほどだったけれど、時代の波に飲まれ、2009年当時、日本で日本酒や醤油を仕込める大きな木桶をつくれる桶屋は、大阪にたった1社を残すのみになってしまっていた。


「もし桶屋さんがなくなったら、次やその次の世代で醤油を仕込めなくなります。醤油だけではなく、日本酒や味噌、お酢なども伝統的な製法でつくれなくなるため、行動を起こさなければ、和食文化そのものが途絶えてしまうと考えました」。

木桶の値段は1本あたり200万円〜500万円。醤油だけで原価を回収するには膨大な時間がかかるが、山本さんは可能な限りの融資を受け、地元の大工である坂口直人さん、三宅真一さんと共に、2012年に木桶づくりを大阪に習いに行く。


同年、途絶えかけていた木桶づくりの文化を再び広めるために「木桶職人復活プロジェクト」を始めた。現在は、毎年1月に木桶で醤油を仕込む蔵や流通業者、大工、料理人など、総勢200人以上が小豆島に集まる規模に成長し、各地で「木桶による発酵文化サミット」なども開かれている。



「木桶文化を残すためには、醤油蔵が1%のシェアを奪い合うのではなく、力を合わせて1%から2%へと伸ばす必要がある」。未来を見据えて、木桶醤油と木桶づくりに対するビジョンを伺った。

「スーパーマーケットで売られている一般的な醤油と比較して、うちの醤油の原材料費は7〜8倍で、熟成させている時間も考えれば、原価はおよそ16倍ですかね」。販売価格は、一般的な醤油のおよそ3倍に留めている。それを、高いと考えるか、安いと考えるか。


価格に対する考え方は、これからは消費者の中で見直される必要があるかもしれない。その1滴が生まれるまでの時間の価値が、もう少し価格に含まれていくことを、会員のみなさんとも一緒に考えていきたい。

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濃口 菊醤(ヤマロク醤油)

日本最大の木桶の集積地である小豆島で、醤油造りを150年続けるヤマロク醤油の濃口・菊醤(きくびしお)です。京都丹波産の黒大豆を、蔵や大杉桶に棲みついた菌の力だけで醸造。約2年熟成させた豊かな香りや色合いは唯一無二の存在感があり、濃厚でしっかりした旨味とキレのある風味が特徴です。  

¥810

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