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000ごはんが基本。玄米を炊きながら身土不二を考える。
Table to Farmで販売している在来種の玄米「亀の尾」は、わたしたちが「素の味」プロジェクトを進めるきっかけとなったお米。日本に暮らすわたしたちの食の基はお米であることから、TTFではお米についてとても大切に考えてきました。
「亀の尾」は、現在のササニシキやコシヒカリのルーツとなるお米です。初めて食べたとき、こんなにおいしい玄米があるのか、と感動した記憶をみなさんにも味わってほしくて、取り扱いを決めました。
日本には、伝統食の基本の考え方として、「身土不二(しんどふじ)」という言葉があります。身(からだ)と土(土地)は切り離せない、住む土地と体は一体であり、身近でとれるものを食べることが体によい、という意味です。
むかしから日本の土地で大切に食べられてきたものといえば、お米。なかでも玄米は、蒔けば芽が出てくる生命力とエネルギーに溢れた食べ物で、ふるくから暮らしを支えてきたもの。現代の食生活には、日本食から離れたものも多く入ってきていますが、ちょっと立ち止まって、この国で育つ食材に少しだけ耳を澄ませてみてください。
今回は、TTFが主催した玄米の炊き方ワークショップをご紹介します。

おいしくて、
実は手間のかからない玄米
玄米はかたくてあんまりおいしくないけれど、からだにいいから食べたほうがいい。そう思っていたとしたら、きっとそれは炊きかたのせい。しっかりコツを守って炊くと、心からおいしいって思えるお米が炊けます。
お料理びとのmIeさんがそう言ってはじまった、今回のお料理教室。フラワースタイリスト・平井かずみさんのアトリエ「皓 SIROI」にて、mIeさんから玄米の炊きかたを教わる教室に、多くの参加者がわいわいとつどった。

興味を持って集まってくださった方々も、日常的に玄米を食べると答えたのは数名。食べたい気持ちはあっても、実際に炊いて日々の暮らしに取り入れようと思うと、どうしてもハードルが高くなる。そのひとつが、長い時間浸水をさせなくてはならないこと、だ。
ならばと考えたのが、TTFがオリジナルで作った雲井窯の「鍔付き御飯釜」。そしてTTFで扱っている鋳物屋の「ヘイワ圧力鍋」だ。
御飯釜は、玄米を浸水しなくても炊けるよう、お米に対流を起こし、釜のなかをムラなく加熱できる。鋳物屋の「ヘイワ圧力鍋」は、日本で唯一、むかしながらの鋳造で作られている圧力鍋。高い圧力がムラなくかかるよう綿密に設計され、浸水なしでももっちりと炊き上がる。
この2つの鍋なら、浸水なしでもおいしく炊くことができる。白米を炊くようにお米と水を入れただけで火をつけられるなら、玄米が食卓にのぼる可能性も高くなるだろう。
一方、どんな鍋でも浸水なしで炊けるのが、mIeさん流の炊き方。特に災害時などの緊急事態では、「あのお鍋がないと炊けない」と玄米食を諦めてしまうのはもったいない。
「震災のとき、被災地に玄米を送りたかったのですが、玄米を炊けない人がとても多いことを知ったんです。圧力鍋があれば炊ける、という方もいましたが、それならばどこでどんな鍋で炊いてもおいしい炊き方を伝えていきたい、と思ったんです」
浸水なしで炊き上げる、土鍋ごはんと圧力鍋ごはん
あらためて玄米とは、収穫したお米から籾殻(もみがら)だけを取ったもの。白米はここから糠(ぬか)と胚芽を取り除く。籾殻がついたままの玄米は空気に触れにくいので酸化の速度が遅く、長期間保存していても味が落ちづらい。

白米と違って糠を落とす必要がないので、洗うときは籾殻から出た粉っぽさを取る程度でいい。玄米を手でくるくるとまわしながら対流を起こして洗うと、汚れが水に浮いてくる。水がきれいになるまで2〜3回くりかえしながら、やさしく洗う。
ポイントは、水のなかで玄米がしっかり動きまわっていること。お米とお米の間にも水が通ることで、一粒一粒きれいに洗える。玄米の表面には撥水効果があるので、全体にまんべんなく水をまとわせることで、お米全体にしっかり吸水させることができ、浸水しなくてもかたくならない。

「白米だと水を吸ってしまうから、最初に入れた水はすぐに捨てる、と教わると思いますが、玄米の場合はそもそも吸水スピードが遅いので、最初の水は急いで捨てなくて大丈夫。ゆっくり丁寧に洗ってください」(mIeさん)

ざるにあげたら、御飯釜と圧力鍋それぞれに米と水を入れる。水の分量は、御飯釜ではお米の2倍。圧力鍋は1.2〜1.5倍だが、水加減は玄米の水分量や季節、その日の温度や湿度によっても変わってくるので、好みの水加減を探してみて、とmIeさん。mIeさんは鍋に指を入れて感覚で測っているが、はじめて炊く人はTTF推奨の水分量、米の1.8倍量の水を入れるというレシピも参考にしてほしい。
水を入れたら火をつけて、いよいよ炊飯。火をつけたら、ふたをあけたまま加熱していく。この、ふたをあけたまま、というのが大きなポイント。鍋の中の温度を急速に上げてしまうと、玄米の外側にばかり熱がいき、芯まで火が通りにくくなり、かたい仕上がりになってしまう。玄米が吸水しやすい温度帯はぬるま湯くらいの温かさなので、その時間を長く続かせられるよう、時間をかけてゆっくりと温度を上げていく。
ぼこぼこと沸いてきたら、まんべんなく行き渡るように塩をふる。
「低い位置からパパッとお塩を入れただけでは、お米全体に届きません。日本料理では基本といわれていますが、20〜30cmほどの高い位置から塩をふると、全体にしっかり塩が行き届きますよ」

強火にしてすべてのお米がぼこぼこと踊ったら、ふたをして弱火に落とす。ここからはただじっと待つだけ。御飯釜は25〜30分ほど、圧力鍋は圧力がかかってから17分ほど炊く。
素材の味だけで勝負する
「お米」のおいしさ
今回炊いたのは、山形県酒田市の荒生勘四郎農場で育った「亀の尾」という玄米。明治時代に山形県で発見されたもので、コシヒカリやササニシキは曾孫品種にあたる。つまり、日本のお米は亀の尾からはじまったといってもいい。

亀の尾は化学肥料や農薬を使う栽培方法に適さず、今では幻の米といわれるほど収量が減った。でんぷんの粘りを抑えるアミロースの含有率が高く、さっぱりした味で、油ものとの相性もいい。低GIで血糖値の急激な上昇をおさえる効果もあり、現代の食生活にはぴったりだ。
「お米と他の食材との大きな違いは、味つけをしない、というところ。調味料をふって炒めたり煮たりする食材と違って、お米は素材の味をダイレクトに味わう、唯一の食べものなんですね。だからこそ、ただ炊くだけでおいしい! と思えるくらいの素材力が必要。ごはんは、水とお米だけでおいしくなるという、すばらしい食材なのです」(mIeさん)

そうこうしているうちに、炊きあがったばかりの玄米が目の前に。全体の水分量を均一にするため天地を返してから、ざっと混ぜて盛りつける。

食卓に一緒に並べたのは、TTFが日本中を探し回って集めた自信の「ごはんのおとも」。稲わらだけで発酵させたらくだ坂納豆や、和歌山県熊野灘から届いたふわふわの釜揚げしらす、梅干しは自然栽培で育った梅を天日干しした、昔ながらの味の梅干し、そして有明海でとれた口どけのよい成清の焼きのりなど、玄米をもっとおいしく食べられるおともばかり。

御飯釜で炊いた玄米は、ふっくらとやわらかい。一粒一粒しっかりしていて食べごたえある食感ながら、風味はあっさりとしていて軽い食べ心地。朝ごはんにたべても胃に重たくなく、カレーなどの献立との相性もよさそうだ。
一方、圧力鍋で炊いたほうは、もっちりとしていて甘みがあり、やわらか。もちもちしているので食べごたえも十分。のりで巻いたり、しらすや梅干しなど塩気のあるおかずと合わせるのがおすすめだ。
同じお米でも、炊きかたによってこんなにも味が違うことにはみんなびっくり。それぞれに好みの炊き方を見つけるのも、玄米の楽しさのひとつかもしれない。
「玄米をおすすめしているからって、明日から全部玄米食に切り替えなさい、というわけではないんです。ただ、玄米が炊けるようになれば、玄米を食べる選択肢ができる。できることがひとつ増えたらきっと楽しいし、選択できるって素敵なことですよね」

仏教の言葉に、「一物全体」という教えがある。食べ物は丸ごと食べたほうがよい、という意味で、玄米はその最たるもの。食事の時間が短くなっている現代生活のなかでも、しみじみとおいしさを噛んで味わうときを大切にできたら、体にも心にもよい食事が楽しめそうだ。毎日玄米と決めなくても、ふと気が向いたときに「あ、今日は玄米にしよう」という選択肢がある暮らしを、ぜひ試してほしい。

“mIeさんの玄米の炊きかた”
材料
- 玄米(亀の尾 荒生勘四郎農場)好みの量
- 水玄米の2倍(圧力鍋の場合は1.2〜1.5倍)
- 塩(坊津の華)少々
作り方
ボウルに玄米を入れて、水をかき混ぜながらよく洗う。
汚れが水に浮かなくなったらざるにあげ、鍋に米と分量の水を入れる。
ふたを開けたまま中火にかけて10分加熱する。
米が全部踊ったら弱火に落としてフタをし、25〜30分炊く(圧力鍋の場合は圧がかかってから17分ほど)。
時間がきたら火を止めて、そのまま10分ほど蒸らし(圧力鍋の場合は圧が抜けるまで)、天地を返す。
“参加者の声”
Aさん
玄米を炊く過程そのものが四季を意味していれ、理にかなっているなととても納得できました。あのあとすぐに自宅で玄米を炊いたのですが、今まで硬いな〜と思っていた玄米が炊き方、意識を変えただけでふっくら甘く炊けて驚きました。お米も、海苔、塩、納豆、梅干し、どれも美味しかったです。一番贅沢でした。素敵なイベントを企画してくださりありがとうございました。
Bさん
実際にその場にいるからこそ感じられるものが沢山あり、充実のイベントだと思いました。玄米を食べたいと思った時にすぐ炊けることの心強さを実感しております。素晴らしいイベントを開催してくださりありがとうございました。
Cさん
ご説明の中で「情報を食べている」というフレーズを使われていたのが印象的でした。オーガニックや有機栽培、無添加などの言葉が一般に広がる中で本質的には理解せずともそれを選んでいることが多いと感じていたので、はっと気付かされる言葉でした。
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