素材の力を信じれば、あなたの料理はもっとおいしくなる

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素材の力を信じれば、あなたの料理はもっとおいしくなる

フードコーディネーター 長尾 智子
取材・分:藤井志織
写真:福田喜一
フードコーディネーター
長尾 智子
フードコーディネーター。書籍や雑誌のほか、食品や器の商品開発も手掛けている。オリジナルの器や調味料、セレクトした雑貨などを扱うオンラインショップ「SOUPs」を運営。著書多数。近著に『料理の時間』(朝日新聞出版)がある。

素の味の調味料や素材は、いつも使っているものよりちょっと高くて躊躇するという人もいるかもしれない。フードコーディネーターの長尾智子さん曰く、「いい素材を使うことのよさは、手をかけなくてもおいしい料理ができること」。例えば素材を蒸したり焼いたりしただけでも、素材と調味料の味が良ければ、それだけで抜群においしくなるのだ。

では、いい素材、いい調味料とはどんなもの?

長尾
「やっぱり保存料や香料など余計なものを使わず、最低限の材料でできている質のよいものがいい。工業的な作り方ではないものが好みです。保存や見た目のために定められた範囲内で使っていると言われても、食べるとなんだか違和感があるし、不要な風味を感じます」

そもそも「おいしい」の基準も人それぞれだ。

長尾
「普段、家で食べるものは、“なんか少し物足りない”くらいがちょうどいいと思っています。外食は味も量も盛られていることが多いから、家庭では“足りないくらい”に戻ることを意識したい。 今の果物は糖度が高すぎるし、市販の合わせ調味料は過剰な味付けに感じます。繰り返して食べていると、それが当たり前になってしまう。だけど素材本来の自然な風味やシンプルな調理法を知っておけば、自分で料理を作り、食べることが楽しくなる。魚の切り身をさっと漬けて焼く、野菜は蒸したり焼いたりして食べる、という料理のほうが慣れるとラクなんです。素材の風味や鮮度に合わせたり、ありもので応用したりできるしね。調味料で素材を覆い隠すようなことはせず、『にんじんってこういう味だったな』と思い出せるのが家の料理だと思っています」
料理人 長尾智子さん(撮影:相馬ディレクター)

そこに気づくと、素材の選び方が変わる。

長尾
「卵にしても、そのものの味の違いがわかると自分で選べるようになる。みんな誰かのおすすめが好きだけど、そういうのを鵜呑みにせず、自分にちょうどいいものを選べるほうがずっといい。自分で興味を持って知ることは大事です。例えばこのお醤油をかけるとお豆腐がおいしい、って思えるものがあれば、それでいいんです」

仕事がら、さまざまな種類の調味料が手元にやってくるけれど、子どもの頃から食べ慣れている醤油もずっと使い続けている長尾さん。塩を自分でブレンドしたり、醤油が濃すぎると感じたら水で薄めたり、油は風味が強いものとクセがないものを混ぜて使ったり、自分流の着地点を求めて調整することも楽しんでいる様子。

長尾
「定番の調味料を決めておくと安心だけど、いろいろなタイプを使い分ける面白さもある。“素の味”は、余計な旨味や強すぎる辛味や甘みがなく、さりげないところがいいですね。いろいろ試してみて、自分にとってのちょうどいいものを見つけたらよいと思います。調味料は少し背伸びしてでも買うと、自分で作った料理が圧倒的においしくなるから。ひと匙かけるだけでおいしくなるなら、魔法の調味料だと思いませんか(笑)。外食もいいけど、家で食べるのが実はいちばんのご馳走だと思えるのって、うれしいことですよね」
Recipe 01

時間がないときに助かる
クイックスープ

トマトジュースの冷製スープ

トマトジュースをそのままスープとして利用し、トッピングの野菜で塩気を加えます。なんとも手軽で、食欲がないときもごくごくといただけそう。野菜はバジルやとうもろこし、パプリカなどに代えても。寒い季節には温めて、クルトンとチーズをのせてもおいしい。

おいしいコメント
「おいしいトマトジュースがあれば、冷やしただけで即席ガスパチョができちゃうなんて目から鱗」(相馬)
長尾
「潮風のトマトジュース(Happyplace)は、高濃度のフルーツトマトのみでできた、甘みのある濃厚なジュース。冷製ならレモンの酸味を加えて、温製なら水で少し薄めてひとつまみの塩を加えると、よいバランスに」
01 / 03
きゅうりはおろし金ですりおろす。枝豆はゆでてさやを外し、粗く刻む。それぞれに塩を加えて混ぜる。
トマトジュースを器に注ぎ、1をのせる(きゅうりから出た水分も一緒に)。オリーブ油を軽く回しかけ、レモンを搾る。
トマトジュースを鍋に入れ、約1/3量の水を加える。弱火にかけて温め、器に注ぐ。バゲットの薄切りをトーストして乗せ、チーズをおろしかける。忙しい時にはカップに入れてレンジで温め(加熱しすぎに注意)、手軽な粉チーズを振ってもいい。
Recipe 02

醤油とみりんを1:1で。
10分前に漬けて焼く

かじきの醤油みりん焼き

照り焼きよりもさっぱりとした、飽きのこないおいしさ。幽庵焼きよりもぐっと手軽に作れるのは、風味のいい調味料だからこそ。

おいしいコメント
「照り焼きを、さらりと濃すぎずおいしくつくれるって嬉しい」(相馬)
長尾
「新鮮な切り身なら、前もって塩を振る必要もなし。鰤や鮭、鱒などで作っても。品のいい、洗練された味わいの淡口 生成り(ミツル醤油)は、肉や魚を長い時間漬け込んでも強くなりすぎません。濃口 古式じょうゆ(井上醤油店)は、醤油のお手本のようなバランスの良さと濃さがあり、オールマイティー。どちらでも好みの醤油に、ベタつかず風味のよい本みりん、一子相傳(小笠原味醂醸造)を合わせれば、すっきりとした味つけに。1人分につき醤油とみりんを小さじ1ずつと覚えれば簡単です。焼くときに使った国産菜種油 伝承油(ほうろく屋)は、菜種油の強さや重さがなく、とても使いやすく素材の邪魔をしないところがいい。衣をつけた揚げ焼きのような料理にも良さが出そう」

さっぱりとしたコールスローのような、キャベツとセロリの酢もみをつけ合わせに。

長尾
「ひとさじのてん菜糖や蜂蜜で少しの甘みを加えて、甘酢漬けのようにしても。たっぷり作っておけば常備菜的に食べられます。使った心の酢(戸塚醸造店)は、有機栽培のお米や富士山の雪解け水など、原料からしてとても貴重。甘さを控えた寿司酢にも使ってみたい」
01 / 03
キャベツは短めの千切りにしてボウルに入れる。セロリは筋を取って薄切りにし、キャベツに加える。塩を軽く振って混ぜ、米酢を加えて軽く握るようにもみ、全体をなじませておく。
めかじきをバットにのせ、醤油とみりんを回しかける。そのまま4〜5分置いて上下を返し、さらに4〜5分置く。フライパンに菜種油を入れて弱火で軽く温め、めかじきを並べ入れる。少し火を強めて焼き、途中で上下を返す。両面が焼けたら火を弱め、漬け汁をまわしかけてからめる。
キャベツの水気を軽く絞って器に盛り、めかじきをのせ、トマトを添える。
Recipe 03

焼くだけ、蒸すだけが
いちばんおいしい

ソーセージ、ベーコンと野菜の蒸し物

切って蒸す、または焼くことで、素材そのものの味をぐっと引き出したシンプルな食べ方。特に保存料や発色剤も不使用のベーコンやソーセージはやさしい味わいで、加熱すると肉の旨みが際立つ。長尾さんの提案は、まずは野菜と一緒にせいろ蒸し。

おいしいコメント
「放牧豚のソーセージやベーコンならではの、自然な甘みや旨みが野菜に沁み込んでいました」(相馬)
長尾
「冷めてもしっとりとおいしく食べられます。蒸し料理は慣れなので、忙しい人ほど、まずは小さめのせいろで試してほしい。ソーセージもベーコンも蒸すと、焼くのとは違うやさしい味に。野菜の上にベーコンをのせることで、ベーコンはしっとり、野菜は脂の旨みをまとって一石二鳥」

ベーコンはカリッと焼くのもいいけれど、焼き方を変えるだけで新鮮なひと皿に。焼くときの油は淡口 玉締め絞り胡麻油(松本精油)で、風味づけにオリーブ油を少し。

長尾
「野菜を先に焼いて焦げ目をつけ、後からベーコンを加えて、その脂でさらに野菜を焼きます。特になすは多めの油でこんがりと焼くのがおいしい。大辛堺高の爪一味(やまつ辻田)で仕上げると、メリハリがついて夏らしい一皿に」

ズッキーニ、ゴーヤー、コリンキーなどで作っても。上質なベーコンは脂の風味がいいので、お皿に残ったオイルをパンにつけて食べるのもおすすめ。

長尾
走る豚のソーセージとベーコン(共にやまあい村)は、食べてみると、余計なものが加えられていない、必要最低限でできていることがよく分かります。子どもたちに本来の素材の味を知らせるのにとても良さそう」
01 / 02
鍋にお湯をたっぷり沸かしておく。ズッキーニは両端を切り落とし、厚めに切り分ける。玉ねぎは4等分して皮をむき、さらに半分に切る。パプリカは4つ割にしてへたと種を取り除いてから、ほかの野菜と大きさをそろえるように切る。とうもろこしは4等分に切る。
せいろに彩りよく並べ、ソーセージとベーコンを散らすようにして上にのせ、全体に軽く塩を振って蓋をする。蒸気が沸いた鍋にのせ、強めの中火で10分蒸す。好みの調味料を添える。
Recipe 04

納豆がおいしいからできる
新しい食べ方

納豆の炊き込みご飯

浸水した米に水と納豆を加えて火にかけ、炊き上がったら混ぜて醤油をちょろり。パクチーなどの薬味を添えて、粉山椒をかければ極上のおいしさ。

おいしいコメント
「納豆が先祖帰りして大豆の風味が感じられる新鮮な味わい。おいしい納豆は調味料にもなれるのかあ」(相馬)
長尾
「納豆の調味料や具材としての良さが引き出せる調理法。谷町稲わら納豆 大粒(らくだ坂納豆工房)は穏やかでくせがなく、すんなり食べられてコクがあるので、調味料として使える良さがありますね。醤油やごま油、一味などとよく合います。このご飯は醤油の風味も際立つので、上質なものを選ぶ甲斐があるというもの。多めに炊いて小分けにしたり、おむすびにしたりして冷凍しておけば、時間のない時にボリュームのあるご飯として役に立つはず。忙しい人にお勧めしたいメニューです」

塩気がないと納豆の味がぼやけてしまうので、仕上げの醤油は必須。塩やナンプラーでアレンジしたり、とうもろこしなどの野菜を炊き込んでもOK。

長尾
旭というお米(桑の原農園)は炊き上げると粒が立ち、心地よい弾力がある。甘すぎないのもほどよい。とても香りがくっきりと良い石臼挽き朝倉粉山椒(やまつ辻田)は、和食に限らずいろいろな料理の仕上げに使えそう」
01 / 02
米を研いでざるに上げ、水気を切る。20〜30分置いてから鍋に入れ、1.1倍の水を加える。上に納豆をのせて蓋をし、中火にかける。沸騰したら弱火で10~12分炊いて火を止める。醤油を振り、納豆をつぶさないように手早くざっと混ぜ(ムラが残っているくらいでよい)、蓋をして7~8分ほど蒸らす。
器に盛り、食べやすく刻んだ香草をのせ、粉山椒を振る。

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