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000『素の味』の選定基準をつくる
『素の味』を選ぶ基準として、一番大切にしていることは、やっぱりからだが喜ぶようなおいしさです。おいしさほど、不確かで、個人差があると言われてもいるし、事実、口の中や舌だけで感じるおいしさは、大いに個人差はあると思うのだが、何度も何度も食べてみて、これって何かが違うな、と思えるまで食べ比べてみると、口の中のおいしい、のちょっと先に、何か共通した違ったおいしいがある、みたいな感覚を得るようになっていきました。個人差の先にあるような、動物としておいしいと感じているような、そんなおいしさが、確かに存在している気がするのです。それは、このおよそ4年近く、とにかく食べて、比べてみたことで見えてきた、自分たちの実体験でした。なかなか言葉には表せないのですが、とびっきりおいしい何かがある。
選定基準は、後から作る
Table to Farmがつくる選定基準は、食べて、選んで、会いにいって、その上で、共通していたことを編んで作っていきます。そこが他とはちょっと違うことかもしれない。たとえば、米味噌を選んだ時のこと。米味噌は全国に分布する味噌文化の中で、最も一般的で、どの地域にも普及している味噌です。麦味噌や白味噌は、おおよそ西の地方に多いし、豆味噌は東海3県が主たる生産地であることから比較すると、ほぼほぼ全国に分布する米味噌は、本当に数多ある。天然醸造や木桶仕込み、などの条件を仮に設定したとしても、それでも何百という味噌を選ぶことができる。そんな中で、自分たちが試食会に、最低限の条件として天然醸造や、化学調味料など無添加、また、発酵抑制をさせた酒精なども含まないもの、などの最低限の基準を基に、試食用として取り寄せたものでも有に100を超える米味噌が集まりました。塩分過多になりながら食べ比べた日を、冷や汗とともに思い出します。
迷ったらとにかく試食を繰り返す。何度でも何度でも。
米味噌で100種類の中から絞り込んでいく。そんなことができるのだろうか、と思っていましたが、やってみると、少しずつ見えてくるものがあるのです。まずはそのまま食べてみる。味噌の旨味、香り、舌触り、塩味の角、いろんな角度からその味噌を見ていく中で、少しずつ絞り込んでみる。旨味は確かに感じられた方がいいし、香りも良い方がいい。どちらかだけが優れていても、しっくりこない。そのバランスのようなものも気になっていくのですが、そうやって試食メンバーがそれぞれに一つ一つの味噌にコメントをしながら、あーでもない、こーでもない、と意見交換をして、次は、お湯に溶いてみたり、出汁に合わせてみたり。すると、そのままで味わったらおいしかったものが、旨味のボディのようなものがサッと消えてしまうもの、香りが飛んでしまうもの、一方で、塩味がやや強過ぎるかなと感じていたものがグッと味を引き立てていくものなど、試食の方法を変えていくと、じっくりじっくり解像度が上がっていくように、何かが見えてきます。
その後も、海藻や野菜と合わせたらどうか、動物性の豚と合わせて豚汁にしたらどうか、、、そうやって繰り返していくと、最初はそれぞれの意見が分かれていたものが、個人の味覚を超えて、いろんな情報や理屈も超えて、なんだか身体が自然と選んでいくようなおいしさに行き着いていくようになっていく感覚があります。Table to Farmでは、基本商品の選定は、3つ以内にしているので、おおよそ3つ以下になったタイミングで現地に足を運んでいきます。米味噌は結果、2つの生産者に見学に行くことになりました。そして、現地に行くと、天然醸造は共通しているけれど、木桶仕込みはそうでないものもあった中、新たに分かったのは、共に野生の空中に浮遊している麹菌を採取して、その麹菌で米麹を作り、醸していたことでした。しかも、日本で2社しかないそうで、その2社を選んでいた、という奇跡に驚きながら、やはり、試食の先に、口の中のおいしいの先に、何かは確実にあったんだな、と確信を得た時間でした。
100種類の中からたった2つを選んだ時の驚く共通点
現地訪問を経て、僕たちの「選定基準」が浮かび上がっていきます。米味噌は、じっくりと微生物たちが発酵している環境がつくられた「天然醸造」で、塩はミネラルが含まれた、「未精製の海塩」を使い、さらに「野生麹」を採取して味噌にしていること、といった基準が出来上がっていく。そう、この進め方が、Table to Farmの選定基準の作り方。基準をあとから作る、というのはこのことで、まずはシンプルにおいしいから入っていき、その中でもからだにもおいしいを探していき、最後にその理由を知って、それを基準にしていく。時間もかかるけれど、基準を情報だけで、机上で考えないことは、常々大切にしてきました。僕たちは情報を食べているんじゃなく、命をいただいています。なので、身体全体の感覚としておいしいと感じることを基本にしいていきます。それが、結果的に、微生物が多様に共生していることや、自然環境が良くなる栽培であったり、自然とうまく付き合っている方法が選ばれている傾向があったと思います。
もし、逆のプロセスで、基準をつくってから選んでいたとしたら、僕たちは自信を持ってこれがおいしい、と言えなくなっていたかもしれません。生産者の方にお会いする時に、これだけ食べてきました!あなたの作るものがおいしかったから来ました!と伝えています。もはや愛の告白に近い(笑)。でも、実際にそのくらい食べてきている。聞けば、生産者の方たちにとっても、食べてもいないけれど情報だけでやってくるバイヤーが多いことに嫌気がする、とおっしゃった方もいた。生産者と、僕たちのように、生活者との間に立つ人にとって、最も大切にしたいことは、これを一緒においしいと感じている、という共通感覚の共有、それを共通言語にしていること、だと思う。
原材料表示は誰のため?生活者のためになってない?
そうやって一つ一つ、選んできた食品を、わかりやすい共通点として整理していったのが、この『素の味』基準。なかなか辛抱強い作業が必要なのだけれど、Table to Farmの中の、『素の味』を探す仕事を中心に活動するR&Dチームが、緻密に一つ一つ調べて整理をしてくれている。そんな中、後から全ての基準を作っていくので、ある程度多くの食品の基準が揃ってきはじめると、少しずつ食品同士で小さな矛盾が生まれていくことにも気づいていきました。それが顕著に出てきたのは、加工度合いの多い、ある意味で料理に近い、加工品の世界。たとえば、ケチャップ、マヨネーズ、ドレッシング、、、といった、複数の調味料や食材を使用して作る加工品でした。
原材料表示の基本として、たとえば、ドレッシングの中に含まれる醤油は、アミノ酸などが含まれた醤油でも、醤油と記載される。油も絞って濾過しただけの圧搾製法だろうが、溶剤を使用して化学的に分離させる抽出製法だろうが、関係なく、米油は米油、ごま油はごま油となる。食品の原材料表示のルールは、間違いは記載されていないが、その製法や内包物についての詳細な情報が提供されきれてはいないこともわかっていく。結果、ひとりひとり、生産者の方に、その中に含まれている油は何製法ですか?塩は精製されたものですか?醤油に添加物は入っていますか?と聞かなくちゃいけなくなる。
当然、どんな加工法をしているか、どんな原材料を選ぶかは、生産者にとっては企業秘密となるものも多い。しかし、生産者と消費者の間に立つ、僕らのような間に立つ立場は、そこを適切に伝えられるからこそ、信頼して購入をしていただけるようになる。そこはなんとか、お客さんの立場に立って聞かなくちゃいけない。しかも、新規で取り扱うタイミングでこそ、そのやり取りが必要になるので、お互いの信頼関係がまだまだ構築できていない段階では、そう簡単なことではない。それは教えられない、となった場合に、取り扱いができないままになっている候補食品も、実はたくさんある。未来の食文化をつくっていこうと、このプロジェクトに一票を投じてくれている会員の方たちのためにも、適切に商品を説明できることは、とても大事にしていきたい。
並走・対話・タイミング
すでに選んでいたものの中で、他の加工品を調べる上でわかった情報を新たに得ると、改めて他の基準を見直す必要が出てくる食材もある。中にはそれが原因で、やめざるを得なかった食品もある。ただ、必ずその前に、この原材料を他のこういった原材料に切り替えることができないか、という提案をしてみている。生産者にとっても、食材の仕入れ先との関係性があるので、すぐに切り替えは難しいことは承知の上。僕たちも一緒にじっくりと向き合っていこうと思っている。あれだけの数の中から選ばせていただいた生産者なので、簡単には、じゃあ他を探すか、とはなれない。今年が難しくても、5年後だったらやれる、というタイミングはあるに違いない。ずっと並走しながら、対話をしていきながら、ちょうどいいタイミングを見計らっていく。
天日干しの平田屋さんの新たな挑戦
長崎の天日干しの平田屋さんも、実はそのひとり。長崎の自然豊かな場所で、ミネラルをたっぷり含んだ潮風と遮るもののない天日を身いっぱいに受けられるその場所で、化学調味料や保存料なども一切使わずに生産されている。それは本当においしいものだったけれど、干物の加工段階で使用する塩について、他の食材の基準の中で、未精製の塩化ナトリウムの含有量が95%以下、つまり、他のミネラル含有量が5%以上になる塩を基準につくるべきだろうと決めたことで、平田屋さんが通常使われている並塩(並塩も食卓塩のような塩化ナトリウム99%以上ではなく、95%以上、つまりミネラルが2〜5%程度は含まれるているもの)が決して悪いわけではないけれど、僕たちの全体の選定基準を変えてしまったことで、より『素の味』らしくあるために、ミネラル含有量が多い塩で、次なる平田屋さんの天日干し干物に挑戦してみてはどうか、と話してきた。
平田屋さんの干物は、僕たちが全国の干物を食べてきた中でも、比較的価格が安い方だった。聞けば、地域内で食べてもらえる価格として販売してきたけれど、これだけ原材料も高騰し続けていく中で、今のままでいいわけでもない、、、とおっしゃっていた。原材料を替えて、売り先を替えて、それに伴い価格も替える。そういう商品を一つ持つことで、それを食べる人にとっても納得のいくものができたなら、事業の継続にもつながっていく。事業をしていると、どこかで古くからの慣習を打ち破らなければいけない転換点は、やってくる。そんな時に、Table to Farmがあることで、新たな挑戦にトライしてみることができたなら、みんなハッピーだろう。もちろん、僕たちはちゃんと販売をしなくちゃいけないのだけれど、そこができれば、新たな扉を開いてみる冒険がはじまるのだ。
おいしいから始まる『素の味』選定基準。基準があるからつくれるコミュニティもある
『素の味』基準を明示することが、ただの情報提供にならないようにしていきたいし、その基準ありきで選んでいかないようにも注意していきたい。どこまでいっても、Table to Farmは、体も喜ぶおいしい、ことが始まりであること。しかし、この『素の味』基準が開示できることで、お客さんが知識を蓄え、日常の中でも『素の味』のような食品を、最寄りのスーパーでも選ぶことにつながる可能性があるならば、それはまた広い視点で『素の味』な生産者を応援していくことになると思っている。
食品によっては、今はどんなに探してみても、全体の基準との整合性が取りにくい、という種類の食品もあることがわかってきた。お米は自然栽培、野菜は有機栽培(有機JASをとっていないけれど、実質は有機的な栽培として確立している方も)を基準としているが、調味料の原材料の大豆や小麦、畜産の飼料などには慣行栽培の作物が使われることもある。その場合は、ちゃんと何を使っているものかを明示しながら販売をしていくことにした。完璧で優等生な要件が揃うことよりも、生産者と僕たちが、おいしい、という共通言語で対話をしながら、みんなで少しずつ変わっていく未来を目指していくことを大切にしながら、この『素の味』基準は、しなやかに時代の変化を受け止めながら、感覚で受け取るおいしさを信じ、改善の余地がある時はそれを明示しながら、生産者と会員の方とみんなで一緒にコミュニティをつくりながら成長していきたい。
Communitysupported Food cultureのコミュニティには、実は、生産者も会員の方も、そして僕たちもみんなが含まれているってことなんだろうな。
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