ホンモノの食材は、ストライクゾーンが広い

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ホンモノの食材は、ストライクゾーンが広い

アヒルストア店主 齊藤 輝彦
取材・分:藤井志織
写真:伊藤徹也
アヒルストア店主
齊藤 輝彦
東京・富ヶ谷のワイン酒場「アヒルストア」店主。大学卒業後、設計事務所や弁当屋台「スター食堂」、ワインショップワインショップ「トロワザムール」勤務を経て、妹の和歌子さんと2008年に現店をオープン。

「日本にナチュラルワインを普及してきた店」「奥渋谷を活性化させた店」「並んででも行きたい店」などなど、注目を集め続けている東京・富ヶ谷のワイン酒場〈アヒルストア〉。7坪の小さな店はいつも満員だが、その混雑さえも楽しく、カウンター席と樽テーブルの立ち飲みスタイル、というカジュアルさも心地よい。

店主である齊藤輝彦さんは、飄々と客をもてなしながら、次々と料理を仕上げていく。季節の野菜やハーブを使った小皿料理や、昔ながらのフレンチ惣菜は、どれもナチュラルワインに合わせて作られたもの。ぶどうの栽培から醸造まで自然な製法でできたナチュラルワインは、野菜や果物と同じ農作物のようなもの。だから、必要以上に手をかけることなく素材の味を引き出した料理が合うのだろう。

齊藤さんの料理が、軽やかでありながら絶対的なおいしさで強い印象を残すのはきっと、敬愛する農家の“佐々木さん”の野菜の持ち味を活かした本質的な料理だから。
以前、「化学調味料を使わずに真面目にやってきたのは、愛読する『美味しんぼ』(漫画)の『良い素材さえあれば料理は決まる』という姿勢に影響されている」と話していた齊藤さんに、Table to Farmについての感想を聞いてみた。

齊藤
「〈Table to Farm〉の食材を試食したとき、いちばんに感じたのは、材料がいいとほんとにおいしくなる、という当たり前のことでした。自然栽培の亀の尾の玄米はとんでもなくおいしかったし、雲仙の岩崎政利さんが作った在来種の玉ねぎは、まるで梨みたいにみずみずしかった。お弁当屋さんをやっていたこともあって、料理をするときはきっちり計量する癖がついているけど、いい食材だと、多少分量がずれてもちゃんとおいしくなる。ストライクゾーンが広いんだなと思います。究極、料理をおいしくするには、素材が大事ということですね」
Recipe 01

応用が効く和えもの感覚

玉ねぎとミョウガのしらすサラダ

新玉ねぎが旬の時期に〈アヒルストア〉で提供しているサラダ。刻んで水にさらした玉ねぎにみょうがとしらすを合わせて、柑橘の果汁と好みの油で和えるだけ。食べたときに、ピスタチオのカリッとした香ばしさと甘みが、ホッとするようなアクセントになっている。

おいしいコメント
「美味しいしらすって、仕上げの塩みたいに使ってみたら、旨みが重なり、なんでも一品料理になっちゃうかも。簡単うれしいレシピ。」(相馬)
齊藤
「岩崎さんの玉ねぎはみずみずしいので、新玉ねぎじゃなくても作れます。僕はものすごいしらす好きなんですが、この4代目 特選釜揚げしらすはまったく臭みがなくて驚きました。獲って40分以内に加工していると聞いて納得です。あとね、冷凍のしらすって解凍してから時間が経つと臭みが出てくるじゃないですか。これはふわっと冷凍されているから、使いたい分だけほぐして解凍できるのもいい。 かぼす果汁はそのときにある柑橘で代用できます。店ではEXVオリーブオイルを使いますが、淡口 玉締め絞り胡麻油で作ってもおいしいですね」
01 / 03
玉ねぎは繊維に垂直に薄切りにし、水に⚫︎分ほどさらし、水気を切る。
みょうがは縦に半分に切ってからせん切りにする。
玉ねぎ、みょうが、しらす、ピスタチオをボウルに入れる。玉締め太白胡麻油をかけて和え、坊津の塩とかぼす果汁を振って和える。
Recipe 02

上質なベーコンは、脂がご馳走

ベーコンのキャベツ焼き

食べると口の中にベーコンの香りが広がり、ふわっとした食感の生地はあっさりといくらでも食べられそう。この軽やかさは、たっぷりのキャベツを少なめの粉でまとめているから。生地にベーコンを混ぜ込んで、弱火でじっくり焼くのがポイントだ。自然豊かな環境で、草やどんぐりを餌に放牧で育った走る豚 ベーコンが、味の決め手となっている。

おいしいコメント
「うどんなら、出汁が良ければ素うどんでも十分おいしい。豚の脂が良ければ、ソースなしで、美味しいお好み焼きができあがるのだな〜。」(相馬)
齊藤
「お好み焼きって好きなんだけど、材料も多いし、ソースの味も強いし、もっとミニマルにしてもおいしいかも、と思ったんですよね。料理の仕組みとしては素晴らしいので、その構成を取り入れて〈アヒルストア〉のニュアンスで作るとこうなりました。
最初はベーコンを敷いた上に生地を流して焼いてみたんだけど、脂が溶け出してガリガリになりすぎちゃう。せっかくおいしい走る豚 ベーコンなので、ケークサレ的に生地の中に残っているほうが脂のコクや風味を活かせると思います」
01 / 03
キャベツは5mm角に切る。ベーコンは4〜5等分に切ってほぐす。
ボウルに【生地】の材料を入れて混ぜ、キャベツを加えて混ぜ合わせる。
フライパンに油を入れて火にかけ、生地を流し入れる。なるべく高さを出すように形作り、弱火で10分焼く。裏に返してさらに10分焼く。
Recipe 03

2つの材料を合わせるだけ!

にぼ酢

材料を手に入れたら5秒でできる、なんとも潔いレシピ。“にぼし+酢”から命名された料理名で、にぼしは西日本ではいりこと呼ばれることが多い。今回使ったやまくにのいりこは、上質なカタクチイワシのにぼし(いりこ)を選別し、一つ一つ手作業でエラや内臓を取り除いているから、くさみやえぐみがなく、きれいな味わい。そのにぼしを浸ける富士酢は、丹後の里山で育った無農薬のお米を一般的な商品の5倍量を用いて、自家製の米麹や山の伏流水で造った“酢もと諸味”、蔵付き菌で自然に発酵・熟成させた、濃厚な旨みが特徴。

おいしいコメント
「街の酒場の真骨頂か。スーパー手軽で、スーパーおいしい。このいりこ、このお酢だからこその絶妙なバランスが超重要です。」(相馬)
齊藤
「これは熱燗を出すような居酒屋によくある一品。日本酒にはもちろん、ワインにも合うんですよ。素材の味がそのまま出るから、上質なものを使うことが重要だよね。浸ける時間は3〜4時間でも、ひと晩でもいい。このままつまんでも止まらないほどおいしいんだけど、残った酢にもいいだしが出てるから、溶き卵を入れるだけで旨いサンラータンになる。これが二日酔いにぴったりなんですよ(笑)。いい餌を食べてそうなきれいな色の平飼い有精卵を使って、石臼挽き朝倉粉山椒を振れば最高」
01 / 02
材料は、いりことお酢だけ
材料を保存用ポリ袋に入れ、空気を抜いてひと晩おく。
いりこを取り出していただく。

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