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000天然の稲藁納豆菌と向き合ってみた3ヶ月。
いつもおいしい稲藁の納豆菌で発酵させた納豆をつくる、大阪のらくだ坂納豆工房の納豆を、一時期販売できなかった時期があります。2025年の6月から9月までの3ヶ月間。らくだ坂納豆工房の納豆を常備菜のように毎日のご飯でご利用いただいておりました会員の皆様にはご迷惑をおかけしてしまいました。
稲藁の納豆菌で発酵させる納豆づくり。日本にはその伝統的な製法で今もつくられ続けている納豆屋はほとんどない。指で数えられるほど、と言える。中には、稲藁がパッケージにはなっているものの、完全に殺菌処理がなされ、実際には純粋培養された納豆菌で発酵されているものも多く、本来の稲藁の納豆菌でつくられる、香り豊かで、発酵度合いが変化する喜びを味わえる本来の納豆に出会える機会は少ないと言えます。当然、天然の菌であるが故に、計画的な発酵が進まないこともあり、その不安定さと難しさが原因にあります。
僕たちが数ある納豆の中から選び、心から愛してやまない、らくだ坂納豆工房の稲藁納豆。およそ販売を開始してから半年が経ったある日から、お客様から食感がボソボソとして粘りが少ない、というご意見をいただく機会がありました。天然の納豆菌で発酵させている納豆だけに、製造ロット毎に多少の変化があるのも、天然菌だからこその魅力でもあるので、Table to Farmの試食メンバーでも、様子を見守りながら、らくだ坂納豆工房の代表である伊戸川さんとの意見交換を重ねていきました。
考えられうる仮説をとにかく試してみる
私たちはその原因について、当初、納豆の冷凍環境に課題があるのではないか、と考えていました。製造した納豆をすぐに冷凍させる、1日置いてから冷凍しその後に発送いただく、冷蔵状態で倉庫に納品してすぐに冷凍する(通常の方法)、冷蔵で倉庫に納品して1日、2日、3日、と日数を変えて冷凍させるなど、何度となく実験を行いました。熟成感の香りには変化はあるけれど、納豆の食感や粘りにはあまり大きな変化はなく、やはり、お客様からの問い合わせと同様の結果が得られました。およそ1ヶ月程度、自分たちの方でできる範囲の検証を繰り返した後に、これは冷凍や解凍の段階で生まれる差ではないのではないか、と考えるようになりました。あらためて、それ以前の製造段階について、以前とどういった違いがあるのかを伊戸川さんと相談するようになりました。
そこで、伊戸川さんからいただいた話は、納豆ファージによる不十分な発酵が、発酵室内に起きている可能性でした。納豆菌ファージとは、納豆菌にだけ感染するウイルスの一種で、納豆の粘りの主成分であるポリグルタミン酸を分解してしまい、そのウイルスに納豆が汚染されてしまうと、粘りが無くなり、食味が落ちてしまうということ。食べた人に何か影響があるかというとそうではないのですが、室内に納豆菌ファージが発生すると、納豆菌の発酵が進まず、ボソボソの食感や粘りが少ないことの原因がわかり、まさに今回の事象と類似していたのです。
納豆ファージによる発酵室内の汚染
元々の製法では、天然の納豆菌の発酵環境を整える目的で、らくだ坂納豆工房では敢えて発酵室の殺菌を行わず、水洗いのみとされていました。そこで、室の清掃方法を水洗いからヨウ素系抗菌剤を用いた殺菌に変更してみることになりました。ヨウ素系防菌剤は、人間や動物の成長や健康には欠かせないミネラルでありながら、強い殺菌力を有し、1830年からビール・ワイン・清酒などの醸造工場や豆腐・納豆などの食品工場で一般的に使用されている殺菌剤です。ヨウ素は、数百万年前の太古の海水が地層に閉じ込められ、天然ガスが溶解した「かん水」からつくられます。海水と似た成分ですが、海水中には0.0001g/L以下しかないヨウ素がおよそ0.1g/Lと多く含まれています。ヨウ素系防菌剤(ダイヤクリーン)には放射能をもたない、安定ヨウ素が使用されており、安全性は高く、食品工場で一般的に使用されているため、それを100倍に薄めたヨウ素系防菌剤(ダイヤザンクリーン)を使用した殺菌方法を採用し、週に1度、噴霧器で発酵室及び製造室全体を殺菌することになりました。8月の後半から、室の殺菌方法を変更したことで、納豆の発酵具合については、大きく改善され、現在では今まで通りの納豆を製造することに至っています。
天然の納豆菌は一筋縄にはいかない。
向き合う難しさと、得られる喜びと。
もちろん、純粋培養した優秀な納豆菌を使っていた場合は、納豆菌の発酵環境を整える、という発想そのものがそもそもなかったかもしれません。しっかりと殺菌をして、しっかりと安定した納豆菌を噴霧する。安定した環境をいつでも清潔に実施できることは、確かに素晴らしいことではありますが、天然の稲藁の納豆菌を使うことに向き合い製造する方法とは少し異なる考え方でもあったでしょう。どこまで何をすると、天然の納豆菌とうまく付き合っていけるのか、それはこれからも試しながら、続けていくしかありません。全てが昔ながらの環境にすれば良いわけではなく、時に、現代的な技術を活用しながら、今の時代に適切な環境づくりをすることも、天然の菌たちとの付き合い方として、アップデートされて良いと思っています。
やっぱりおいしい冷凍しないままの納豆
ただ、怪我の功名ではないですが、何度も試食を重ねる中で、冷凍させずに食べる納豆のおいしさに改めて気づけたことは、Table to Farmにとってとても有意義な時間ともなりました。再販に伴い、冷蔵での販売のみに切り替えることにしました。天然の生きた納豆菌だからこそ、賞味期限はあれど、少しずつ時間の変化での食味の違いを楽しむことができ、もっと言えば、当初からの魅力の一つでもある、賞味期限を過ぎた頃からより熟成度が増しておいしくなることも、より味わっていただけるものになっていると思います(もちろん、冷蔵で受け取った後により長期保存させるように冷凍していただくことも問題ありません)。
さらに、検証の一環として、今までの500gよりも少ない分量のパッケージにも挑戦してみました。納豆の重なっている厚みが薄くなることで、より納豆菌がうまく発酵するようになった印象があり、食味としても、より良い納豆になっているのでは、と感じるようにもなりました。今までよりも、さらに『素の味』らしさを感じる、らくだ坂納豆の納豆の届け方を結果的に得ることができました。会員の皆様にはご不便をおかけしましたが、自信を持ってお届けできるものになっております。
素の味の生産者との日々は、本当に一歩ずつ
こうやって、一つ一つ、生産者の方と意見交換をしながら、お互いにより良くしていく話ができるのも、生産者のもとに必ず足を運び、そして、試食を何度もしていく方法をずっと続けてきたからかもしれません。私たち自身も、お客様と生産者の間に立つ役割として、これからもお互いにちゃんと信頼していただける関係を今後もつくっていきたいと思います。ある意味で、生産課題に一緒に取り組めた今回のことは、僕たちのつくることに関わるという意味においては、一つのCommunity supported Foodculture(CSF)の新たな形だったとも言えるかもしれない。
らくだ坂納豆工房の稲藁納豆があると、自然の力を、朝から体いっぱいに取り込むことができる。毎日の朝ごはんが、かけがえのない豊かな一食になる、そんな納豆をこれからもお届けし続けていけるように、お客様との間に立つ役割でもある僕たちが、お客様からの声に耳を傾けながら、小さくもつくることに関わり続けていきたいと思います。
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