森の中を自由に駆け巡る放牧地鶏。雄鶏の滋味深さを引き出すシャポン技術。

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森の中を自由に駆け巡る放牧地鶏。雄鶏の滋味深さを引き出すシャポン技術。

取材・文:相馬夕輝(Table to Farmディレクター)

写真:峰岡 歩未

国内の鶏肉の自給率はおよそ6割で、そのほかはブラジルなどからの輸入によるもの。スーパーなどで店頭に並ぶ、やわらかくて安価な若鶏たちの多くは、ブロイラー種と呼ばれる、食肉に改良した品種。採卵用のブロイラー種はケージ飼いが主流ですが、肉食用は主に平飼いで飼育されています。しかし、その飼育密度は非常に高く、日本の肉食用養鶏平飼いの平均密度は16〜19羽/㎡、つまり、25cm四方に1羽と、とても狭いスペースでの管理がされています。また、飼育期間も短く、およそ45日で出荷されます。

日本の地鶏を食べ比べてみました

僕たちが日本各地から取り寄せたのは、地鶏を中心に様々な品種。地鶏の定義は、日本農林規格(JAS規格)の基準をクリアした鶏のことを指し、在来種由来血液百分率が50%以上のもので、飼育期間が孵化日から75日以上、28日齢以降は10羽/㎡以下の平飼いという条件がつく。上記した一般的なブロイラー種と比較しても、比較的良い条件があることが分かり、まずは地鶏を中心に試食を開始しました。

もう少し地鶏についての説明を加えておきたいと思います。明治時代までに海外から渡来したものも含めて生息や飼育が地域に定着された鶏の品種を、「在来種」と呼んでいます。現在その在来種には、38種類が認められており、その中の16品種は、国の天然記念物の指定を受けています。地鶏は、それら在来種と別種の鶏とを交雑して掛け合わせ、上記のJAS基準の血統、飼育環境や期間をクリアすると「地鶏」と呼び、食肉として利用されることができるのです。つまり、厳密には、地鶏は在来種の血をもった品種であり、在来種そのものではないのです。天然記念物なはずなのに食べれるの?と思った方の誤解はここにあります。

例えば、誰もが一度は食べたことがあるかもしれない日本三大地鶏の一つとされる秋田の「比内地鶏」。比内地鶏の親に当たる在来種の「比内鶏」は、その味の良さから藩政時代には年貢として納められていたそうです。昭和17年に天然記念物に指定されたことで、以降、在来種としての比内鶏は食べることは叶わなくなりました。そこで、オスの比内鶏と、メスのアメリカ原産のロードアイランドレッドとの一代交雑種(F1種)が、その比内鶏の食味に近いとされ、「比内地鶏」と名付けられ普及されていったのです。国内に流通している地鶏ブランドが数多あるのは、そういった生産者たちの工夫の背景があるのです。

日本各地から、平飼いや放し飼い、中でも、卵の『素の味』を探した際に、鶏の本来あるべき環境での育成、つまり、より自然の森に近い環境での飼育をされている生産者はいないか、また、飼料についても遺伝子組み換えの輸入配合飼料が使われていないものがないかなど、今までリサーチをしてきた他の食品から学んだ経験も踏まえながら、日本の各地の地鶏、比内地鶏をはじめ、軍鶏、名古屋コーチン、黒岩土鶏、天草大王、烏骨鶏、、、など、その食べ比べを開始しました。

森の中で放し飼いで地鶏を育てる
新潟「ひよころ鶏園」に出会う

地鶏自体は比較的肉質がしっかりしていて、噛みごたえがあるものが多い傾向があります。冒頭に挙げたブロイラー種とは明らかに肉の旨みや、皮の甘み、食べた後の余韻など、その味わいの違いは明らかでした。ただ、どんなに旨みが強くても、やはり固すぎると、どうしても食べにくい。そのちょうど良いバランスのおいしさを持ったものがあるのが望ましいと、何度も試食を重ねていった先に、僕たちは新潟市でたったひとりで3000羽の養鶏に取り組む「ひよころ鶏園」の川内寛之さんの地鶏に出会いました。肉質は確かにしっかりとしているのに、しなやかな歯切れがある。当然、旨みも甘味も伴っていて、嫌味がなく、なにより体が喜ぶ感覚がある。お米や野菜の『素の味』を探してきた時に感じたような、自然栽培の在来品種に共通する何か体が喜びだす感覚が、鶏肉の中にも感じられたのです。

ただ、ひよころ鶏園の川内さん、ひとりで3000羽の面倒を見ているため、本当にお忙しく、電話はなかなか繋がらない。事前にどんな養鶏をされているのかを聞くこともなかなか難しいとわかり、これはもう行ってみるしかないと、なんとか見学のアポイントを取り付けました。ひよころ鶏園さんと同じ新潟市内には、お米の「亀の尾」栽培を、CSFの取り組みとしてご協力いただいている宮尾さんがいらっしゃるので、その打ち合わせを兼ねながら訪問してみることにしたところ、宮尾さんは、以前、養鶏もされていたため、川内さんとは旧知の仲という偶然。そう、『素の味』生産者は本当につながることがとても多い。宮尾さんからも、川内さんの養鶏は素晴らしいよとお勧めもいただき、意気揚々と移動しました。

人と鶏と、ちょっと多めの犬たちが共存する
今までも見たことも無い養鶏風景

ひよころ鶏園は新潟駅から30分ほど移動した場所に養鶏場を構えています。田園風景を抜けた先、少し山手に移動した五頭山麓の山林の中。この曲がり角でいいのか、、と不安を感じながら、深い樹々に囲まれた道に入ると、小川を渡り、その先の突き当たりに、ひよころ鶏園がありました。門の前には、ちょっと驚くほどの、犬、犬、犬、犬、犬、、、、と番犬シールが貼られています。一抹の不安は的中。大小様々な犬たちが門まで迎えに来てくれました。15頭くらいはいたように思います。これだけの犬に吠えられる経験は久しくなく、面を食らってしまいましたが、ただ、よく見ると犬たちはみんなしっぽを振って喜んでいるのか、とも解釈できるように聞こえてきます。これがどうぞ歓迎の意思でありますように、、と信じたいだけだったかもしれません。

犬たちに遅れて、川内さんが迎えてくれました。犬は噛んだりしないから大丈夫、と優しく声をかけてくれたことで安心しつつ、門が開きます。その日、僕たちは3人で伺ったので、ひとりあたり5頭に(本当に)囲まれながら、もみくちゃにされながら、園内に足を踏み入れました。そして、もっと驚く光景がその先に広がっていたのです。

周囲を川と樹々に囲まれ、広大な養鶏場の中には鶏舎がいくつもあります。そこまではわかるのですが、鶏舎の外にたくさんの鶏たちが右に左に自由に歩き回っているじゃないですか。。。水浴びをするものもいれば、土の中を啄むものも、森の中を走り抜けるものも、犬と追いかけっこするものも、この世界は夢じゃないかと思えたほど。そして、鶏たちの中には、明らかに違った品種が入り混じっていることも確認できます。

川内さんが育てているのは、名古屋コーチン、軍鶏、烏骨鶏、岡崎おうはん、にいがた地鶏、あずさの6種類。それぞれの鶏舎では品種ごとの養鶏が確かに行われているけれど、その扉が開かれ、舎内外を走り回ることができる品種がいます。他の品種が他の鶏舎の中に入ることもできてしまうわけですが、ただ、川内さん曰く、地鶏などの古い品種の遺伝子を持つ鶏は、ちゃんと帰省本能が働き、入り混じることはほとんどないのだそう。逆に、新しい品種改良を重ねた鶏は、そういった鶏本来の本能を失いつつある、とも教えていただきました。

川内さんは、以前の職場で食物アレルギーを発症し、哺乳類全般と魚類が食べられなくなったことがきっかけに養鶏事業を自ら開始。抗生物質など化学的な添加物にアレルギー反応がでることもあり、自らの養鶏場でもそういった化学物質は持ち込みません。鶏に与える飼料も、人工飼料や抗生物質などを一切使用せずに、地元産の玄米を炊いて(!)与えています。どうやら炊いた方が胃の消化率が6~8割向上するからだそう。そのほかにも、トウモロコシ、乾草、大豆、かつお節、胡麻、牡蠣殻、小麦、米ぬかなど国産100%の飼料に加えて、養鶏場内の、言わば森の中で、野草や虫をついばみ育っています。

森での放し飼いや、シャポン技術
経済合理性の外にあったおいしい理由

僕たちが、最初の取材で伺ったのは、試食を経て、実は軍鶏を取り扱いさせていただく予定でした。しかし、今販売することができたのは、名古屋コーチン。その理由は、まさに取材を終えて撮影も終えて、いざ発注という段階で、2025年夏、全国ニュースにもなった、養鶏場の中に熊が3頭入ってしまい、軍鶏が襲われてしまった事件でした。川内さんから「熊にやられて軍鶏を送れなくなった、他の品種も検討してみてほしい」と連絡をいただいたのです。何度も試食を重ねて選んだ軍鶏だっただけに、こちらも意気消沈していたのですが、あらためて名古屋コーチンを送っていただいたところ、これも軍鶏とはまた違ったおいしさがある。すでに食べ比べていたはずなのですが、あらためていただくと、旨みの広がりがすごい。皮もしっかりとしていて甘味がある。中でも、驚いたのが、オスがおいしいのだ。ただ、そのオスは単なるオスではなく、去勢手術をしていて、それを「シャポン」と呼ぶのだそう。

川内さんは、ヨーロッパでは幅広く取り入れられている鶏の去勢技術の習得に成功し、地鶏のオスの去勢を行っています。去勢されたオスは「シャポン」と呼ばれ、個体の大きな牛や豚に実施することに比べて、高い技術を要するとされています。そのため、フランスでもとても希少とされ、特別な時にいただくものだそう。日本国内でも、調べたところ3社程度しか出てきませんでした。その中のひとりが、森の中で3000羽をたったひとりで養鶏する川内さんですから、その努力は凄まじいものがあると思いました。去勢した鶏の中で、一部再生してしまう鶏もいるそうです。それを「半去勢」と呼び、こちらはシャポンよりも、確かにややオスに近い印象があります。やや固めに仕上がるのはありますが、旨みはむしろ抜群です。それでも、一般的なオスのような臭みはありません。料理によって使い分けると良いな、と思えるものでした。オスは確かに効率的に身体が大きくなる特性があります。しかし、一般的には固さと臭みで敬遠されがちな肉でもあり、だからこそ、去勢をすることで、オスのもつネガティブな部分を食味の良さや効率的な成長へと、変換しているのでした。しなやかな肉質で、歯切れの良さは格別です。そして、味わいの良さはもちろんですが、香りがとてもいい。肉そのものも、出汁にしても、本当に豊かな味わいが広がります。

畜産業界におけるオスの難しさ
オスだからこその新たな価値がある

実際のところ、畜産業界において、オスの取り扱いは非常に難しいものがあると感じてきました。それは、牛や豚にも共通するものですが、より多く消費される鶏においてはさらに顕著な事例と言えます。まず、鶏は雛が孵るところで、オスとメスで決定的な選択がされます。メスは採卵にも食肉(身質が柔らかい)にも重宝されるため、生かされ、孵卵場から全国の養鶏農家に販売されていきます。一方でオスは、優秀な種を残せるもの以外は、そのほとんどが殺処分されてしまいます。つまり、人間社会からすると、生きている意味がないもの、とされてしまうのです。畜産業という産業でもある以上、仕方ないことは受け入れつつも、これを知った時は衝撃を受けました。実際、オスが雛の時点で殺処分される映像が、検索すると、YouTubeなどで見つけることもできます。

川内さんのシャポン技術による養鶏は、たとえ畜産業の中の話であったとしても、鶏のオスにも、ちゃんとこの世に生まれて生きていく価値を見出せる可能性があると思いました。しかも、それが綺麗事ではなく、食べ比べてみてメスよりもおいしかったのだから、おいしさと生物の多様性の観点でも、応援したい活動だと考えるようになりました。やっぱりおいしくないと、続かないのも現実ですから。

かつてなく迷走した鶏肉の『素の味』探し。日本中が、地域ブランド鷄づくりの激しい競争を繰り広げる中で、ただ、黙々と、不自然な餌を除き、森の環境を生かし、畜産におけるオスの意味づけを見直し、そして、人と鶏と(ちょっと多めの)犬たちとによる、鶏が豊かに育まれるための場所に向き合っている、そんなひよころ鶏園の川内さんは、『素の味』生産者ならでは。流通から見た差別化の商品開発ではなく、鶏や自然環境を深く観察して、やるべきことをやっている確かな覚悟と、それによって得られる確かなおいしさがありました。もちろん、シャポンの鶏はそんなに安いものではありませんが、その味わいの裏にある、シャポン技術や森との共存環境も含めて、まずは味わってみていただきたい。

毎日の暮らしの選択ひとつひとつが、
実は生産者や生産地と繋がっている

最後に、卵と同様、森で飼うからこそ、鶏の肉質も良いことは、やはり共通していました。それは同時に、森の中の他の動物たちとの戦いを生産者が担わなくてはならない現実があることも、僕たちはよく知っておかなくてはなりません。森にたくさんの広葉樹があったなら、熊は森の中で食べるものに満たされ、里には出てこなかったかもしれません。住宅の木材を、安い輸入材ではなく、国産の植林された針葉樹を利用していたなら、少しでも日本の山の過剰な針葉樹の森林環境を変えることができたかもしれません。割り箸だって国産の間伐材を使えば、小さな変化は生み出せるかもしれない。そう、森と共にあるからこそのおいしさがあるならば、食べる僕らは、その森が守られる選択をしていかなくてはいけないと思うのです。それはあらゆる食材に共通して、生産者にあらゆる皺寄せを負担させない社会をつくることが必要だと思います。

生産地と遠い現実の中で暮らしていると僕たちはとにかく日々自分たちが選択していることが、その距離の遠さ故に、繋がっている社会の中に生きていることの現実に無自覚になってしまう。実は身近なところに、日々の選択で変えられる未来が確実にあること、たった一本の割り箸と、この世界を繋げていく想像力を養うことは、食育の第一歩かもしれないと思いました。この鶏を選ぶことが、この世界をどう変えるのか。それは決して言い過ぎているつもりはありません。『素の味』の取り組みは、とびっきりおいしいものを選ぶことが、結果、自然環境を少しずつよくできることになり、そしてそれらを繋げてくれている生産者を着実に応援していけることになる。本当の美食とは、予約の取れない高級レストランを何軒行ったかじゃなく、この世界が美しくあり続ける選択を、食を通して、暮らしを通してすることだと、森を走り回る鶏たちが教えてくれます。

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純系名古屋コーチンのシャポン(ひよころ鶏園)

「ひよころ鶏園」で育つ純系名古屋コーチンは、産まれたばかりのひなのときから、澄み切った空気と豊かな清水が湧き出る新潟県阿賀野の五頭山麓の山林で、自由に走り回って育ちます。一般的な鶏が育つ2カ月弱よりもはるかに長い10カ月以上かけて育てているのが、「ひよころ鶏園」の特徴。落ち葉が微生物によって分解・発酵して腐葉土になった土を掘り返し、ミミズなどの虫や野草を食べている鶏たちは、健康そのもの。他に類を見ない広大な森での放し飼いで、一般の平飼いの鶏よりもより野生に近い環境で育ちます。炊いた地元産の玄米など、飼料は国産100%。人工飼料やビタミン剤は与えず、抗生物質は一切使用していません。「ひよころ農園」ではフランスで幅広く取り入れられている去勢技術の習得に成功。去勢されたオスは「シャポン」と呼ばれ、高い技術を要するためフランスでは希少で、極めて価値が高いとされています。通常、雄はひよこの段階で廃棄・殺処分されることが多いのですが、「去勢」という手間暇をかけて命を大切に、かつおいしく仕上げるという取り組みへのリスペクトも、評価の高さに含まれています。肉質は身が引き締まりながら固すぎず、しなやかな食感。香りがよく、芳醇な旨味があり、特に脂の甘さは特筆もの。どの部位も、蒸し、焼き、揚げと料理を選ばず、圧倒的なおいしさです。

¥18,890

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純系名古屋コーチンのシャポン(半去勢)(ひよころ鶏園)

「ひよころ鶏園」で育つ純系名古屋コーチンは、産まれたばかりのひなのときから、澄み切った空気と豊かな清水が湧き出る新潟県阿賀野の五頭山麓の山林で、自由に走り回って育ちます。一般的な鶏が育つ2カ月弱よりもはるかに長い10カ月以上かけて育てているのが、「ひよころ鶏園」の特徴。落ち葉が微生物によって分解・発酵して腐葉土になった土を掘り返し、ミミズなどの虫や野草を食べている鶏たちは、健康そのもの。他に類を見ない広大な森での放し飼いで、一般の平飼いの鶏よりもより野生に近い環境で育ちます。炊いた地元産の玄米など、飼料は国産100%。人工飼料やビタミン剤は与えず、抗生物質は一切使用していません。「ひよころ農園」ではフランスで幅広く取り入れられている去勢技術の習得に成功。去勢されたオスは「シャポン」と呼ばれ、高い技術を要するためフランスでは希少で、極めて価値が高いとされています。通常、雄はひよこの段階で廃棄・殺処分されることが多いのですが、「去勢」という手間暇をかけて命を大切に、かつおいしく仕上げるという取り組みへのリスペクトも、評価の高さに含まれています。肉質は身が引き締まりながら固すぎず、しなやかな食感。香りがよく、芳醇な旨味があり、特に脂の甘さは特筆もの。どの部位も、蒸し、焼き、揚げと料理を選ばず、圧倒的なおいしさです。

¥13,639

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