野生麹菌で醸造する日本で2社しかない米味噌の『素の味』

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野生麹菌で醸造する日本で2社しかない米味噌の『素の味』

取材・文:相馬夕輝

写真:峰岡 歩未

日本の米味噌文化

日本には現在、およそ1200〜1300ほどの味噌蔵があります。しかし、遡れば1959年にはおよそ3000軒の味噌蔵が存在していたようです。規模ももっと小規模な味噌蔵が存在していたでしょうし、もっと言えば、家々でまだ自家用の味噌を自分たちでも仕込んでいた時代だったとも言えます。当時は、ほぼ全量が国産の大豆でまかなわれていましたが、今では国産大豆で仕込まれている味噌はたった5%に過ぎないとか。時代の変化とともに変わりゆく日本の伝統調味料の味噌。

2024.9.22

今回は、中でも国産の味噌のおよそ8割のシェアを持つ米味噌の『素の味』についての旅。

天然醸造の米味噌は大豆と米を主成分とし、麹菌や乳酸菌、酵母菌などの微生物による発酵熟成をした、およそ半年から1年、長いとそれ以上の期間を使って長期熟成した味噌のことを言います。生きた微生物たちの働きをじっと見守りながら、おいしい味噌が育くまれていくのを待ちます。

天然醸造を行う蔵では、木桶に、屋根に、大黒柱にと、そこかしこに棲みついた様々な微生物たちがいます。クリーンな製造環境も大事ですが、一方で、人間目線だけのクリーンさではなく、微生物たちが生きやすい環境を作っておくことも非常に重要な要素となります。同じ材料で、同じレシピで味噌を仕込んだとしても、どの味噌蔵も同じ味にならないのは、微生物たちという見えない存在があるからこそ。

2025.06.20 福井県越前市。
速醸法が約1〜3ヶ月で完成するのに対し、天然醸造は約6ヶ月〜1年以上かけてじっくりと熟成されて味噌が出来上がります

120種類の米味噌から選ぶ

「Table to Farm」で味噌を選ぶために、地域性や製法、原材料にこだわりを持つ味噌を集め最初の試食会でラインナップしたのは、なんと120種類。初回の試食会の結果としては、参加した面々の味の印象や判断は、ややばらついた選定となりました。

例えば、あるスタッフは親が富山の出身だということで、見事に富山の味噌をおいしいと感じて選ぶという結果に。味覚における経験の影響はやはり少なからずあります。しかし、『素の味』の選び方は、出自の違うメンバーが共通しておいしいと感じるものにたどり着くまで、出汁と合わせて味わう、味噌だれにして味わう、火を入れて味わうなど何度も試食を繰り返していきます。そうすると、ある時ふと、1〜2つに行き着くように一致していく瞬間があります。味噌もまた、そうやって120種類の中から、2つの味噌が選ばれました。

そして驚いたのは、その2つの味噌をつくる味噌蔵が、日本に現存する味噌蔵の中で、調べる限り3〜4社しか存在しない、「野生の麹菌」をその地域で空気中から採取して味噌を仕込む味噌蔵だったのです。その事実は現地に辿り着いて、蔵元から話を聞いて知ることになりました。

2025.05.12 東京都。
120種を超える米味噌の食べ比べから選ばれた2種には、野生麹菌から仕込まれたという共通点が。

野生麹菌の力で醸す2つの味噌蔵をご紹介します。

1.野生麹菌|木樽仕込 未来(マルカワみそ)

2025.06.20 福井県越前市。

マルカワみそは、福井県越前市で1914年創業。1992年から4代目の河崎宏さん(現相談役)が、食品添加物の危険性を憂慮し、有機食品には「生命価値(健康)」と「環境価値」があると、無農薬の米や大豆を原産にした味噌をつくり始めました。2010年からは全商品が有機味噌になり、一部を除きほぼ木桶で仕込んでおり、今後は100%自然栽培の材料を使うことを目指しています。

採取している野生麹菌は、水に浸した自然栽培の蒸し青大豆を蔵の中に置いておき、空気中から採取します。蔵内の温度と湿度のバランスがとれていることが大切だそう。“大豆“を元に採取した野生麹菌で米麹を作っていきます。

2025.06.20 福井県越前市。
木桶で仕込まれることで広がる、織り重なる風味や旨み。

また味噌の発酵熟成においては、一部を除いてほぼ全量を木桶で仕込んでいました。ずらりと並んだ木桶の風景は圧巻。木桶で仕込むことで、蔵内の温度変化に対してもゆるやかに温度が伝わることや、木桶に棲む微生物の働きが活かされ、複雑なうまみと奥深い香りをもつ味噌ができあがります。

冬と夏で寒暖差が激しい越前の気候もまた、熟成がゆっくりと進む良さがあります。自然栽培の大豆と米、蔵付きの「野生麹菌」で仕込んだ、非加熱の木桶仕込み味噌「未来」は、麹の自然の甘味が際立つ、深みのあるやさしい味わいがあります。

2025.06.20 福井県越前市。
自然栽培の大豆と米、蔵付きの「野生麹菌」で仕込んだ非加熱の米味噌「未来」

2.野生麹菌|在来種「亀治」 自然(藤原みそこうじ店)

鳥取県八頭郡若桜町。
鳥取県若桜町で採取した野生麹菌、蒜山耕藝が無肥料・無農薬で育てた在来種「亀治」の自然栽培米でつくられる米味噌「自然」

鳥取県の東南端に位置する鳥取県八頭郡若桜町(わかさちょう)。標高1,510mの氷ノ山があり、ブナなどの広葉樹を中心とした自然林がいまだに多く残っています。氷ノ山から湧き出る水は口当たりがやわらかく清らか。

そんな豊かな自然環境のなかに棲息している「野生麹菌」を5月から10月の間、味噌工房の庭で自然の中から採取します。野生麹は自家培養で米麹にして味噌づくりに生かします。野生麹菌は非常にデリケートなため、すべての環境、条件が整わないと採取や培養が難しいそうで、聞くところによると、例えば10km先で空中からの農薬散布などがあると、その後2週間は採取ができないのだとか。微生物は敏感に影響を受けているのです。

2025.06.13 鳥取県八頭郡若桜町。
水と空気が澄んだ風土で採取される藤原味噌麹店の野生麹菌。

味噌仕込み用の原材料であるお米は、岡山県真庭市蒜山(ひるぜん)にある「蒜山耕藝」が無肥料・無農薬で育てた島根県の在来種「亀治(かめじ)」の自然栽培米です。自然栽培で育てた、在来種の米の方がうまく発酵が促されると言います。

また、大豆は同じ蒜山エリアで自然栽培を行っている「禾/kokumono」が無肥料・無農薬で栽培したものを使用しており、米と大豆が同じ地域でつくられていることなども、発酵環境においては重要な相性があるようです。

なるべくなら最近の品種よりも、在来の昔の品種の方が発酵の相性が良いと聞きました。「Table to Farm」でも選んでいる亀の尾や旭と言ったお米は、人が食べてもおいしくて、麹などの微生物たちにとってもおいしい、ちょうど中間地点にあるのでは、という話で話が盛り上がりました。どうやら、昔の品種であればあるほど、人の食味よりも、微生物たちが好む傾向があるのかもしれません。微生物たちはそうやって敏感に環境適用しながら、取捨選択をしている。

藤原みそこうじ店の「自然」は、素材の良さが自然の力で引き出されながら、芳醇な風味と深い味わい。塩味や甘味、コク、うま味がバランスよく仕上がっています。

2025.06.13 鳥取県八頭郡若桜町。

足元にある自然に気づいて味わえるおいしさ

日本の発酵文化は、今、世界からも注目されています。発酵調味料はもちろん、郷土食に至る発酵食文化にも関心が集まる中、僕たちが『素の味』と選んだ味噌には、人の技術はもちろんのこと、その地域周辺の自然環境があってこそ生まれる味噌づくりがありました。

飛騨や木曽の山奥で出会う海外の方と話をすると、日本の森や、自然信仰の関係に惹かれている方が多いことに気づく。もしかすると、日本の自然の価値は、日本人よりも外国から来た人の方が理解が早いのかもしれません。

他の地域や、他の国で、同じ様にやってみようと思ってできるものではない味噌づくりがあることは、日本人としてもっと気づかないといけないなと、僕自身もあらためて考えました。野生麹が採取できる奇跡のような環境が、もう少し日常に近い存在になるために、僕たちが今すぐできることは、有機栽培や自然栽培といった、微生物たちと共生するような食品を日々選択していくことです。一歩目があって、二歩目がある。多くの選択は、その積み重ねでしかないのです。

2024.09.23 福岡県大牟田市。
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野生麹菌|在来種「亀治」 自然(藤原みそこうじ店)

全国でも類を見ない、「野生麹菌」を使用した無添加、非加熱の自然醸造の味噌。空気のきれいな鳥取県若桜町で野生麹菌は自然採取し、米は岡山県真庭市蒜山にある「蒜山耕藝」が無肥料・無農薬で育てた島根県の在来種「亀治(かめじ)」の自然栽培米、大豆は同じく地域で穀物を作っている「禾/kokumono」 が無肥料・無農薬で育てた大豆を使用しています。氷ノ山山系の良質な天然水とミネラルが豊富な沖縄海水塩で仕込んで熟成した味噌は、芳醇な風味と深い味わい。塩味や甘味、コク、うま味などバランスがよく、素材の良さが自然と引き出されるのも「野生麹菌」を使った味噌ならではの特徴です。味噌汁や野菜に添えるだけでもおいしいですが、脂分と相性がいいので炒め物に加えたり、乳製品と合わせてディップやソースにすると、料理のレベルが格段に上がります。

¥1,512

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野生麹菌|木樽仕込 未来(マルカワみそ)

福井県越前市で2006年からつくり続けている、自然栽培の大豆と米、蔵付きの「野生麹菌」で仕込んだ非加熱の味噌。三国岳の山頂にある夜叉ヶ池(やしゃがいけ)を水源とする良質の水を仕込み水として使用し、木樽を使って低温で発酵・熟成させる伝統的な天然醸造にこだわっています。木桶をつかう理由は、蔵の温度変化に対してもゆるやかに温度が伝わること、そして木桶に住む微生物の働きにより、複雑なうまみと奥深い香りをもつ味噌ができること。また冬と夏の寒暖差が激しい越前の気候により、熟成がゆっくり進み、独特の風味が生まれます。肉や魚、野菜まで食材を選ばずに調和する万能選手で、特に味噌汁にすると麹の自然の甘味が際立つ、深みのあるやさしい味わいに。

¥1,728

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