植物性乳酸菌が生きて腸に届く、漬物の『素の味』3 〜『キムチ』でつながる、地球と身体の未来をつくるおいしさ〜

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植物性乳酸菌が生きて腸に届く、漬物の『素の味』3 〜『キムチ』でつながる、地球と身体の未来をつくるおいしさ〜

取材・文:相馬夕輝

写真:峰岡 歩未

微生物たちが生きた漬物のこと、京都の乳酸菌が生きた無殺菌の伝統漬物『すぐき漬け』のこと記事をつづけてきましたが、今回が漬物の『素の味』記事の最後となります。日本の漬物を題材にここまで書いてきましたが、当然、漬物は日本に限らず世界にもあります。ドイツのキャベツを使ったザワークラウト、中国の酸菜、韓国のキムチなどの代表的な世界の漬物たち、実は偶然にも共通したものがありました。それは、「塩漬けをしたアブラナ科」の漬物であること。

思えば、すぐき漬けの原材料であるすぐきも、カブの一種でアブラナ科。面白い共通点です。また、塩に漬け込まれた環境下で乳酸菌(細菌:バクテリア)による発酵が進むことが特徴と言えます。同じ原理を生かした発酵食品でありながら、その土地、その国の在来のアブラナ科はそれぞれの個性があるので、その土地らしい漬物たちも多種多様に広がりを見せます。日本の隣国にある代表的な漬物、キムチの『素の味』をテーマに、おもしろい漬物の世界をより一層広げていきたいと思います。

まずは、全国から取り寄せて、キムチを食べ比べ。

韓国の食文化であるキムチをセレクトするに当たって、日本に輸入されている、ないし、日本で生産されているキムチの中から、無添加などの最低限の条件をクリアしているキムチを、まずはたくさん取り寄せて食べ比べをしていきました。

おもしろかったのは、酸味がイキイキと感じられる魅力はもちろん、旨味やコク、塩気のバランスなど、おいしさにつながるいくつかの味のレイヤーが存在し、それぞれのバランスがよいものに惹かれた気がします。

何度も試食を重ねて絞り込んでいった先に、最後の試食方法として選んだのが、調味料を使わず、ただ豚肉と合わせて炒めた豚キムチでした。つまり、火を入れてどう味わえるのか、を試してみました。

複数の候補があった中でJKフーズの「ホントのキムチ」シリーズの豚キムチは、炒めたときに、ちゃんと酸味がきれいに生きているでのです。豚の脂肪分の甘みと、生き生きとした酸味が絶妙な組み合わせだったのです。大袈裟ではなく、このまま、コース料理に登場したっていいほどじゃないか、とまで意見が出たほどでした。

「ホントのキムチ」が、どうして火を入れてもこんなに酸味が生きているというのは、一体なぜなんだろう、、、僕たちは、居ても立っても居られず、すぐにアポを取り、最初はオンラインでご挨拶をし、ワークショップにも参加しつつ、工房へと足を運びました。

おいしいキムチに必要なことを、韓国も巡りながら深め続けているキムさん

Table to Farmがセレクトした漬物に、新たに仲間入りしたキムチ。生産者は、韓国で最後の宮廷料理人をつとめた祖母をもつ金建三さんが代表をつとめるJKフーズさん。韓国の素材を使いながら、日本の白菜でキムチを仕込む「ホントのキムチ」シリーズや、白菜も韓国産を使い、熟成度の高い1年熟成キムチを、最終的には選びました。なるべく韓国の素材を使っているからのおいしさなのだろうか、、、と、どんなおいしい理由があるのか、想像は膨らみます。

キム(金建三)さんは、韓国と日本を往復しながら、キムチに必要となる最適な素材を選んでいます。結果的に、日本だけでは適当なものが見当たらず、韓国の生産地にも足を運びながら、輸入をすることになったものも多いそう。その土地で生まれた漬物には、その土地で穫れた作物や原材料のもつ個性が、相性の良さとして繋がってくるのは納得がいきます。

例えば、韓国の白菜は、日本の白菜と比較すると繊維質が強い傾向があります。日本の野菜全般が、良く言えばみずみずしさを持っている(悪く言えばやや水っぽい)のに比較して、韓国の野菜は、ぎゅっと詰まったような密度感、繊維の強さがあります。

キムチは伝統的に地域集落などで、家々が協力をしながら仕込む風習があるそうです。今日はあの家、来週はあの家、と言ったように。そこでおよそ一年分のキムチを共同で仕込み、韓国の家には必ずあると言われるキムチ専用冷蔵庫で保管します。すぐに食べるキムチは、温度変化があってもいい場所に保管し、長期熟成させるキムチは、冷蔵庫の中でも温度が安定して維持できるスペースに保管します。韓国のキムチ用冷蔵庫内には、同じ庫内であっても、温度環境などを変えられる工夫があるようです。さすがキムチの国。家庭でもおいしく味わう工夫が絶えませんね。

乳酸菌といえども多様な乳酸菌が存在します。それによって発酵速度も異なる菌たちが、ちょうど良いバランスで働きあうことで、複雑味のある味わいができあがっていきます。中でも、2度以下の安定した低温で、なるべくゆっくりじっくり発酵熟成をさせることによって、旨みをつくり出す乳酸菌が優位に動いて、おいしいキムチを仕込むことができるようです。伝統的に、韓国の寒い冬に屋外で仕込んでいたことを思うと、その環境に近いことがおいしい理由を作り出してくれるのかもしれません。

長期熟成キムチは、言わば日本の古漬け。

長期熟成させたキムチは、日本の古漬けのように、酸味が高まり、旨みが凝縮し、濃厚な味わいに仕上がっていきます。おもしろいのは、長く漬けたキムチは、キムチ用の漬け汁(ヤンニョム)を、一旦水で洗い流してから食べるのです。長期で漬け込まれているので、独特な熟度感のある酸味や旨みは、もはや白菜の中にしっかりと溶け込むように染み付いて、おいしいのです。白菜の表面に付いているヤンニョム部分は、長期熟成によって酸化していることも多く、水で洗い流した方が良いのだそう。

長期熟成の時に大きく差が出るのが、先ほどにも書いた、韓国の白菜と日本の白菜の違い。韓国の白菜がもつ繊維質がしっかりした個性によって、たとえ長期熟成を経たとしても、シャキシャキとした食感が色褪せません。日本の白菜ではどうしても水分量が多く、その食感は出せない。キムさんも、韓国の白菜を使わないキムチについては、あまり長期熟成はさせず、むしろ、乳酸菌たちが元気に動き回っているような、フレッシュな味わいを味わっていただいた方が良い、と推奨しています。

日本と韓国、そこで生まれる素材の違い

それぞれの国同士の素材を比較してみると、前述したように白菜の違いだけにとどまらず、塩も違い、唐辛子も違い、アミエビの塩辛や白エビの塩辛なども違います。

中でも、韓国産の塩は、製造過程で火を入れていない完全天日塩。しかも、3年熟成です。唐辛子は韓国産で、辛味はあれど、むしろ旨味や甘味をともなうコクのある辛味が特徴です。アミの塩辛、白えびの塩辛は、どちらも生きた状態で塩漬け加工にしていった塩辛を輸入されていました。製造所で一口ずつ味見をさせていただきました。塩辛らしい十分な塩味はありますが、透明感のあるおいしさも感じ、嫌な香りや臭みが一切ない。

最高の素材から最高の加工品が生まれていく。どこかで聞いたセリフを思い出しました。大阪の七味の生産者である「やまつ辻田」の4代目当主の辻田浩之さん。なんだか似ているふたり。いつか一緒に『素の味』談義のような時間も作ってみたいものです。

そして、それら全ての特別な(欠かせない)食材たちの中でも、キムチの乳酸発酵に、最も大きな影響力を持つ食材は何かとキムさんに尋ねてみたところ、それはやはり、この天日塩だと思います、と即答いただいた。

金さんの天日塩は、韓国の南西部に位置する、新安(シナン)郡の天日塩。韓国の天日塩のおよそ7割を生産している地域で、広大な泥干潟の上に塩田が作られています。塩化ナトリウムの含有量は比較的低く、マグネシウムやカリウム、カルシウムなどのミネラルが多い。しかも、金さんが使うのは、この塩を3年壺で寝かせた3年熟成天日塩。塩を直接食べさせていただくと、まろやかな塩味が特徴で、じわっと口の中に広がるやわらかい甘さは今までに味わったことのないものでした。金さんは、この塩には地球上に生まれた最初の生命、シアノバクテリアがその中に生きていると言います。それがキムチを仕込む時に、大いに力を発揮してくれるのだそう。

実は、韓国では古くは海水を釜で煮る釜炊きの塩だったそうで、塩田式の製法自体は日本から1946年に伝わったようです。思えば、日本も昔は、沿岸部はどこも塩田が広がっていました。高度経済成長など、社会の変化に伴い、沿岸部の立地の良い場所ほど塩田があるため、その退去をさせるために、日本は塩の製造規制を強いた、という説もあります。工業化は進み、また製塩方法も効率化や技術革新が進み、今や、日本の中で、塩田を使いながら天日塩を昔のようにつくる場所はほとんどありません。

現在、大手の製塩会社を除いて、中小の小さな製塩所の多くは釜炊きでつくる塩です。韓国は元々釜炊きだった塩が天日塩に変わり、日本は天日塩だった文化が釜炊きに変わっている。こうやって文化の入れ替わりが、お隣同士で行われたことは、不思議な歴史のひとつかもしれません。

キムチにおいても、手で漬け込むことによって、手の常在菌の影響は大きいようです。さらに、キムさんはこうも教えてくれました。「手の常在菌は、自身の腸内細菌との関係性をすでに持つ菌なので、その手で漬け込んだ発酵は、自分の腸内細菌との関係が良くなる」のだそう。家々で仕込んだキムチがその家に暮らす家族の健康につながっている。家族で仕込む漬物が、やはり最良なのでしょう。

とはいえ、忙しい毎日の中でそこまでできないからこそ、家で仕込むように、家族の健康につながる素材を使って、乳酸菌たちが生きて腸まで届く、おいしいキムチを選びましょう。

分岐点を超えてしまった世界。変化の中に生きる世代。

おいしい漬物の話をしてきました。漬物のおいしさに触れるたびに、意識はこの地球との対比に飛んでしまいます。微生物たちのたくましい仕事を知ると、人がこの世界を理解していることがいかに少ないことかと思えてきます。にも関わらず、大きな影響力を持つ存在になってしまっている。そこに大きな矛盾があると感じてなりません。

人間は、たった数百年の間に、地球が何億年もの時間をかけて生み出した財産を驚くスピードで消費しています。化石燃料を短期間で大量に消費し、生物たちの宝庫とされているようなアマゾンや自然豊かな森を世界中で焼き尽くし、農薬漬けにしながら、多様性を欠如させながら、単品種の栽培に勤しんでいる。多様な微生物たちがいたからこそ、生み出されてくれた恩恵を享受しつ続けてきたおかげで今があるにも関わらず、土壌や森の循環バランスを利己的に崩してきてしまっています。

昨今、目に見えて分かるほど、異常気象が表出してきているように体感します。EU圏での夏の熱波、日本においても、線状降水帯の多発や台風の動きの異変、フィリピンや中国などでも頻発する洪水など、、、人間による影響が、この地球にその大きな環境異変の転換点を迎えさせてしまったのではないか、、と肌身に感じるほどになってきたと言えます。

身に迫った課題になってやっと、人間は重い腰をあげる生き物だったことを、歴史は証明していますが、それは現代でも何も変わっていないことを、環境問題では感じざるを得ません。この10年で「サスティナブル(持続性)」という言葉が至るところで湧き出てきましたが、それはもはや当然、いやそれではもう足りない時代にまできてしまっていると思います。世界はもう一歩進んで、今を維持するだけではなく、今よりももっと環境を再生できる力を伴うアクションをとらなければいけない。「リジェネラティブ(環境再生型)」な取り組みが求めれています。

この世界とどう繋がって生きていくか。お漬物という最初の一歩。

『素の味』が持つおいしさは、いつでも、自然と人との共生が欠かせない事を教えてくれます。口だけじゃなく、身体全体が感じるような、そんな『素の味』のおいしさは、豊かな環境や豊かな自然が欠かせませんでした。環境を良くしようというスローガンで、人は変化をつくることはできなかったように思います。物質的な豊かさは、ある意味でそれを一度得てしまうと手放せない恐ろしい麻薬と言えるかもしれません。

しかし、それをも超えることができるのは、「欲」かもしれません。しかし、今までのような物質欲を超えた欲。『素の味』のような本当に身体から感じるようなおいしさを食べたい、という欲求は、これから本質的に環境とのリジェネラティブな関係を求めて強く動き出していく気がしています。

旅をしていると、こんな山の中にも、見事な石垣を作りながら田んぼが作られていて、その美しい棚田の景色を眺めながら、いかに先人たちがお米へのあくなき欲求を作ってきたか、、と思う時があります。ただ、食べるものを得るならば、山なら畑でも良い。しかし、数キロに及び治水を成功させ、米をつくってきた日本人には、ただの合理性ではない量ではない質の欲求があったと思います。物質的な豊かさから、食(自然と織りなすおいしさ、食文化としてのおいしさ)としての豊かさへと転換していく未来。『素の味』のおいしさを伝えることは、国や地域を超えて共通言語となりえていくと信じています。

なんだか壮大な話になってしまったけれど、大きな自然の変化と、微生物たちが日夜動き続けている発酵は、いつでも世界を繋げています。知識を持たずとも、もう少し、身体の腸内細菌が何を喜んでいるかに、目を、耳を、感覚を向けてみることに向き合うことは、同時に世界とつながることを意味しています。そこには、自然も文化も含めた、すこやかなおいしさが広がるに違いありません。漬物の『素の味』をぜひ楽しく味わってみてください。自分と世界の繋がりは、そのおいしい一歩から始まっていきます。

Product

天然醗酵の生白菜キムチ(非加熱・無殺菌)(ホントのキムチ)

朝鮮王朝の宮廷料理の伝統を継ぐ四代目職人・金建三(キムケンゾウ)さんが、自然の力のみで仕込む無添加・非加熱・無殺菌のホントの生キムチ。一般的な浅漬けや加熱処理された商品とは異なり、保存料や添加物はもちろん、砂糖すら不使用。韓国・新安産の非加熱完全天日塩が健やかな発酵を促し、一年熟成のアミエビをキムチ床に加えることで、熟成とともに奥深い甘みとまろやかな旨味を引き出しています。非加熱製法だからこそ、力強い植物性乳酸菌や酵素がそのまま体に届き、腸内フローラをやさしくケアしてくれます。冷蔵庫の中で浅漬けから深みある熟成へと日々味わいが移ろう、育てる楽しみも魅力。そのまま味わうのはもちろん、しっかりと熟成が進んだ賞味期限間近(45日ごろ)に炒め料理に使えば、旨味と酸味が際立つワンランク上の仕上がりになります。

¥1,114

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1年熟成の生白菜キムチ(非加熱・無殺菌) (ホントのキムチ)

本場韓国で手で仕込み、じっくり1年熟成させた【非加熱・無殺菌】の古漬けキムチ。そのおいしさの理由は、朝鮮王朝の宮廷料理を担った一族の末裔・金建三(キムケンゾウ)さんの伝統技法と、素材選びにあります。キムチに適した韓国産白菜を使い、手作業で根元までしっかりヤンニョムを挟み込む「株漬け」を徹底することで、1年熟成でありながらもシャキシャキとした驚くほどの食感を保っています。自慢のヤンニョムは、保存料や添加物はもちろん砂糖も一切使用していません。新安(シナン)産の非加熱天日塩をはじめ、洞窟熟成の白エビの塩辛や秋獲りのアミの塩辛、自家製おかゆ、昆布だし、石臼挽き唐辛子を使用。また、雑菌の動きを抑える「2℃以下・塩分約12%」という環境管理が、旨味を生み出す乳酸菌を適度に生き残らせ、時間をかけて深い味わいを育みます。納得のいく発酵具合に達しなければ出荷しないという、徹底したこだわり。 加熱殺菌を行わず、植物性乳酸菌と酵素が生きている「本物の生発酵」。より熟成させた場合は、食べる直前にヤンニョムをサッと水で洗い流してください。白菜の奥まで旨味が浸透しているため、洗っても味わいが損なわれず、そのままはもちろん、スープや炒め物でも深い味わいが楽しめます。金さんのおすすめは、同量の豚肉とひたひたの水でコトコト1時間炊くキムチチゲ。熟成キムチの深いコクがスープに溶け出し、絶品の味わいが堪能できます。

¥2,435

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